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THINK PIECE

Juno Mak "Rigor Mortis"

香港のマルチ・クリエーターによる初監督作品。

13 10/30 UP

photo: Shoichi Kajino text: yk location: PINO CHIKA

香港にてスーパーアイドル歌手としてデビューしたJuno Mak。
その後は自身のアーティスト性の追求を行い、新たな方向性での音楽活動、
さらには俳優、ファッションデザイナー、脚本家などマルチな分野で活躍を続けている。
そして今回、80年代のキョンシー映画へのオマージュをふんだんに盛り込んだ映画“Rigor Morits”では、
初の監督を務めた。今回はかねてより繋がりのある高木完氏と共に、Juno Makのクリエイティビティの源に迫る。

 

──
JUNOさんは歌手、ファッションデザイナー、俳優、そして映画監督と、非常に多岐に渡る活動をされていますが、そのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか?
Juno Mak(以下: J )
「私はバンクーバーで生まれ、18歳からユニバーサル・ミュージックで歌手としての仕事を始めました。その2年後には自分でレコード会社を設立して、それからしばらくはそこで活動をしていたのですが、あるタイミングで俳優の仕事をするようになり、その流れで自分で脚本も書くようになりました。おっしゃったように私の仕事は多岐に渡る様に思えるかもしれませんが、常に私の活動の根底にあるのは、創作が好きという想いなのです。私にとっては歌うことも演技をすることも、物語を書くことも表現の方法が異なるだけで、すべて同じ創作なのです」
──
JUNOさんのクリエーションを拝見すると、日本のポップ/ストリート・カルチャーの影響を色濃く感じるのですが、ご自身でそういった意識はありますか?
J
「生まれ育ったカナダでは非常に退屈をしていたので、その間にたくさんの小説を読んだり、映画を観たりしていました。なので、現在の私のクリエーションのテーマとなっている、生命に対する考え方や自分という存在への探求は、全て小説や映画からの影響なのです。どこかの地域に限定してではなく、幅広く影響を受けていると思います。もちろん日本もその中に含まれるのですが、個人的に特に好きなのはアイスランドのような寒い地域の文化が好きです」

──
とはいえ、9月に公開した楽曲にフィーチャリングされていたVERBALさんや、今回ご紹介いただいた高木完さんなど、日本のクリエーターとの繋がりも非常に強いように思います。
J
「私は音楽にしろ映画にしろ、国籍、国境といったものを意識してはいけないと考えています。例えば今回私が初めて監督を務めた“Rigor Morits”は完成後、まずヴェニスで、その後はトロント、テキサス、スペイン、そして今回は日本で公開していますが、その度にそれぞれの地域に自ら赴いて感じることは、創作に国境はないということです。なので私が香港人だからといって香港の人と仕事をしなくてはならない理由はないですし、逆に日本人だからという理由で仕事をすることもありません。そこに国籍は関係なく、純粋に一人のクリエーターとして尊敬できる方と仕事をしたいと考えているのです。それにしても、VERBALさんや高木完さんはもちろん、今回の映画でプロデュースをお願いした清水崇さんや、次のアルバムのジャケットを手がけていただいた荒木経惟さんなど、日本には私の大好きなクリエーターが多いようですね(笑)。そもそも私がキャリアをスタートしたばかりの頃にダンスを教えてくれた初めての先生は、TRFのSAMさんでしたから、日本には縁があるのかもしれません」

 

──
今回の東京国際映画祭で公開された“Rigor Morits”はJunoさんにとって脚本として二作目、監督しては初の作品となりますが、なぜこのタイミングで新たに監督業をスタートされたのでしょうか?
J
「実は昔から監督業には憧れていたのですが、ずっとタイミングが合わず実現していなかったのです。それが去年このチャンスをいただいて、ようやく夢が叶ったところです。私は自分の口で話をするのが得意ではないので、音楽や演技で自らを表現してきましたが、今回は脚本・監督という新たな方法での自己表現に挑戦しました」
──
高木さんは“Rigor Morits”をご覧になってどのような感想をお持ちになりましたか?
高木完(以下: T )
「僕がJunoと初めて会った時は、まだ彼がアイドル歌手として活動をしていた頃だったんだけど、その頃から妙に落ち着いていて、不思議な雰囲気を持った子だったの。それがこの作品を観てようやく腑に落ちたんだけど、やっぱり彼はアーティストなんだよ。“Rigor Morits”の映像はすごく綺麗でスタイリッシュだったな。もしかして、これまでの音楽のプロモーションビデオもJunoが手がけてきたの?」

J
「“Rigor Morits”の前に監督としてお仕事をしたことは一度もないのです。プロモーションビデオはもちろん、携帯電話で動画を撮ったことすらありませんでした。ただ、これまでのPVには自分のアイディアを監督に伝えて、それを形にしてもらうようにしてきました。自分自身もまだ年齢的には若いのですが、さらに若い世代のクリエーター達に少しでもチャンスを与えたいという思いがあるので、新人の監督と仕事をする機会が多かったのです」
T
「これまでのPVにも“Rigor Morits”に通じるようなゴシックな雰囲気があったけど、あれはやっぱりJunoのアイディアだったんだね。ああいう世界観はどういうところからインスピレーションを得てきたの?」
J
「もともと、私は変わった人間なのです(笑)。新聞は読まないですし、ニュースも見ないので、政治的なことや社会のことは何も分かりません。現実的なことよりフィクション、物語が好きなので小説や映画が好きなのですが、“Rigor Morits”の脚本を書く際にも全く架空の、自分の世界を作り上げることに専念しました。台詞は広東語ですが、劇中で舞台設定については一切触れられていないのです。つまりどこでもない場所、架空の世界を70日間の撮影期間で作り上げ、そしてその世界を破壊することで、この作品は完成したのです」
T
「撮影はスタジオだったの? 細かいところまですごく作り込まれていたから、大変だったんじゃない?」
J
「20%はロケで、80%はスタジオでの撮影でした。頭の中で作り上げたい世界観がはっきりとしていたので、壁のシミやボタン、机や照明など、全てゼロから作り上げていきました。非常に大変な作業ではありましたが、面白い経験でしたよ」