THINK PIECE > 伊藤弘×田中知之
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───いわゆるサンプリンフ的手法が通用しないとなると、そこではもっと根源的なテーマやジャンルやムーブメントとは離れたところにある作家性やアイデンティティが問われてくるんじゃないでしょうか?
 
T: 「まさに、そういうことですよ。何か元ネタを探すのではなくて、例えばこのアルバム(『too』)では“SEX&DEATH”がテーマなんですね。そうするとやっぱりエロスというものをどう表現するか、がアートワークでもコンセプトになってくる。もう、ネタありき、ではないんです。さらにCDのパッケージというのはバジェットの制限もあるわけで(笑)、例えばカラープラスティックケースの仕様にこだわりたいとなると、シルクプリントに使える色も限られる。となると、一色で影絵で表現するか、とか。それで、デザインが見えてくるとレコーディングの最終的な方向も定まる、という相乗効果はありますね。……やっぱり、僕とグルーヴィジョンズの付き合いって京都時代から15年ですから(笑)、そのあたりのお互いの呼吸は、やっぱりわかりますね」
 
 
I: 「変化という部分では、やっぱり、移籍のタイミングあたりから田中さんも変わったんだと思いますよ。記号的なモノからより肉体的な強さを志向するようになったになったというか。DJのスタイルにしても、こんなにたくさんのお客さんを熱狂させるようになるとは考えてもみなかった」
 
 
T: 「それはそうですよね。京都時代なんて、それこそ、伊藤さんと一緒にDJ5人に客3人みたいなイベントばかりやって(笑)、お客さんのことなんて1ミリも考えていなかったから。もう、レア盤の自慢のためにやってただけだから(笑)。単にオタクの集まり。でもグルーヴィジョンズもその意味で変わってきたと僕は思いますよ」
 
 
I: 「確かに、それはありますよね……、プロになったってことなのかな。といっても『ちゃんとやろう』みたいな感じですけれど(笑)」
 
T: 「グルーヴィジョンズは、ちゃんとやってますよ。それを見て、僕もちゃんとしなきゃって感じで。お客さんのこと考えたりとかって、ややっぱりプロ意識ですよ。デビューしたての頃は、人前でDJできるだけでラッキー、レコード出せるなんて超ラッキー!って感覚でしたよね、やっぱり。それが2000年以降は、それだけじゃダメだって思うようになってきたんですよ」
 
I: 「僕らも同じですよ、やっぱり」
 
T: 「なんかね、かつてはデザインでも音楽でも、“オシャレ”であることを茶化すというか、斜に構えてた部分があったんですよ。『これって、オシャレじゃん! へへ』みたいなね(笑)。それってアマチュアのポジションの延長だから取れる姿勢であって、それが、だんだん、できなくなってきた」
 
 
I: 「うん。でも次のステージに入ったというより、むしろ本当の意味で修行が始まったって感じですね。毎回、悩む量が増えていく(笑)」
 
T: 「それまでは、記号の編集でカッコつけたりできたわけだけれど、それが、自分の人生観やアイデンティティを問われるようになってきてる。あるいは、ほっといても滲み出てくるようになってきた。それが伊藤さんの言う“肉体的”という言葉の意味でしょう」
 
I: 「田中さんって京都時代から、ものすごく器用だし情報処理スキルの高い人で、実際、雑誌の編集者でもあって、という人で、出会った時にはたまたまやってるアウトプットが音楽だったって印象なんですよ、僕にとって。それがここ数年はやっぱりなんやかにんやいって、プロのミュージシャン、アーティストなんだなって思うことが多いんです。僕自身もそれは同じようなところがあって、昔は、デザインもアウトプットひとつであって、DJをやったり、コンピレーションのレコードを作ったりもしていたわけで。それが今ではデザインが職業になってる。ひょっとしたら、田中さんがデザイナーになっていて、僕がDJになっていたかもしれないのに」
 
 
T: 「そう、そう(笑)。でも、今ではそんなこと考えつきもしない。それがプロフェッショナルになったってことの証明なんだと思うんですよ。僕も伊藤さんも (笑)。それは仕方が無いことという部分もあるけれど、そのポジションを望まないクリエイターもたくさんいる。でも僕らは成熟を選んだんだと思うんです」
───END
 
 
 
 
FPMB 2007年2月7日発売
エイベックス移籍後の代表曲を集めたベストアルバム。
2枚組30曲収録。
 
 
imaginations 2006年
ダンスミュージックとポップスのエレガントな融合がここに極まる。最新オリジナルアルバム。
 
 
too 2003年
テーマは「SEXと死」。哲学的なテーマをスマートかつスムースに昇華するFPMスタイルは本作で完成。
 
 
beautiful. 2001年
それまでのハッピー路線から一転、内省的なニュアンスを含んだトラックを中心としたエイベックス移籍初のアルバム。
 

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