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昨年秋にはシャルロット・ゲンスブールのアルバムへの楽曲提供・参加でも話題となったクールなパリジャン・デュオ、エール。サード・アルバム「TALKIE WALKIE」からはや3年、ついに彼ら自身の待望のニュー・アルバムがここに完成。極上のメロディと“ジャポネスク”なセンスで深化したエールの「ポケット・シンフォニー」にせまる。  
 
AIR(エール) ヴェルサイユ出身のジャン=ブノワ・ダンケルとニコラ・ゴダンによるパリジャン・デュオ。1998年デビュー・アルバム「Moon Safari」を発表。彼らの登場はフランスだけにはとどまらず、ヨーロッパ各国、英・米、日本でも大きな話題となる。当時ダフト・パンク、カシアスらとともにパリを最もクールな音楽都市として認識させた。2000年にはソフィア・コッポラ監督のデビュ−作品「ヴァージン・スーサイズ」のサウンドトラックを手がける。その後セカンド・アルバム「10,000Hz Legend」(2001)、サード・アルバム「TALKIE WALKIE」(2003)と続く。2006年にはシャルロット・ゲンスブール、20年ぶりのニュー・アルバム「5:55」への全曲に楽曲提供・参加し、さらにジャン=ブノワは初のソロ・アルバム「DARKEL」も発表と、その活発な活動で注目を集め続けている。  
 
 
───とても美しいアルバムでした。これまでどおり幻想的なポップ・ミュージックなのは同じだけど、より重厚になった印象を受けました。自分たちも年齢を重ねて、重厚になってきた自覚はありますか?
 
ニコラ(以下N)
  うん、音が成熟してきているのは自覚もしている。ただ音楽をはじめたときのイノセントな部分が成熟によって隠れてしまわないようにという、パラドキシカルな命題に立ち向かわないといけない、ということもちゃんと意識するようにしているよ。
 
 
 
───今回のアルバムでは琴や三味線が使われているけど、ニコラはこれらの日本の楽器にどうやって興味をもったの? またニコラが沖縄で琴や三味線を学んだっていうのは本当なんでしょうか?
 
N: はは(笑)、沖縄で学んだ…というのはどこかで誤解が生じてるようだけど、確かにそれらの楽器は日本で知った。それからパリで日本人のショウコさんという先生のもとで毎週、12月から6月まで半年間にわたって練習したんだ。
 
───2人の音楽はデビュー時からライブ的というよりスタジオ的な音作りを得意とするバンドだと思うのですが、機材への興味とか追求でより深い方向に音作りが向かっているというのはある気がしますが?
 
ジャン・ブノア(以下JB)
JB: 楽器や機材はもちろん、いつも新しいものに興味があって、それが新しい方向性を示してくれることもある。ただこれは楽器だけに限らず、いつも新鮮なカルチャーや音に影響されていくんだ。例えば今回はよくJAPAN(80年代ニューウェーブシーンを先導したUKのバンド)の音楽を聴いてたりね。エールはマグネットみたいにいろんなものを吸い付けて音が生まれてくるような気がするんだ。それはたとえば他のアーティストとのコラボレーションだったり、新しい楽器との出会いだったり。ただその影響の現れ方があまりに露だったり、クリシェに陥ったりしないようには注意してるつもりなんだ。
 
 
 
───JAPAN !? そのバンドとはまた別だけど、奇しくも今回はさっきのような日本の楽器が使われていたり、「MER DU JAPON」という曲があったり…。二人が以前から日本的な美意識が好きだったというのは知っていたけど、今作は特に「ジャポネスク」のキーワードが背後にあるように感じたのだけど、それは強く意識してのことでしょうか?
 
N: 日本のことを意識し始めたのは、いつのことか分からないほど昔からで、強く惹かれて、いろいろ妄想を膨らませていたんだ。それからちょうどこのアルバムをレコーディングしていた時期に付き合っていたガールフレンドは日本の美術に精通していて、いろいろ参考になった。
JB:日本は本当に好きな国なのにしばらく来れるチャンスがなかったんだ。だからこそ、毎日水をあげて花が育っていくように、僕らの胸の中で日本に対するヴィジョンがどんどん大きくなっていったような気がするんだ。
 
 
───ジャポネスクという意識は、日本人には(日本人だからこそ)なかなか定義しにくいところもあります。あるいはフランスの美意識のひとつとして「デカダンス(頽廃)」という観念もあると思うのですが、それにも通じる陰の感傷的な美意識なのでしょうか?
 
JB: 確かに両者には共通の意識もあるかもしれないんだけれど、デカダンスという意識は、フランスという国は既に黄金時代が終わってしまっているという歴史的事実の上に成り立っていて、よきフランスを失って、アメリカン・カルチャーに浸食された中で、どうしても僕たちはメランコリックな部分や陰のある部分を持っていると思うんだ。ときには僕もニコラも、逆に意識してダークな気分になったりメランコリックになったり、悲しみに浸ることに幸福さえ感じることもあるんだ。それは逆に言えば自分の感情を支配しコントロールできているという証拠で、エールの音楽は自分たちの気分やムード、愛や人生を表現すると同時に、その音楽自体によって自らのマインド、傷が癒されていくのを感じるためでもあるのかもしれない。聴く人もそのムードに浸って癒されてほしいと思うんだ。
 

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