THINK PIECE > Interview with Kiyoshi Kurosawa
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─── こうしたキャスティングの面白さは僕たち日本人が日本映画を観るときの楽しみのひとつではあるのですが、黒沢さんの作品は海外でも常に高い評価を得ています。それは当然、日本のマーケット向けだけではない、普遍的なものが表現されているからだと思います。そこで、黒沢さんが考える海外に向けての日本映画ならではのアイデンティティ、あるいはハリウッド映画に対抗できるような戦略とは何なのでしょう?
K: 「いつもそれを考えながら試行錯誤しているんです。よく海外に行きますとジャパニーズホラーという言葉はやはり有名で、日本ではさぞやホラー映画が盛んなのだろうと言われるのですが、現実にはハリウッドとは全く違う環境で、全く違うなりに対抗して、観客にこれまでなかった刺激を与えるということを目的に生まれてきたのがジャパニーズホラーなんです。ただ、そうしたことを自覚しながら真面目に取り組んできた人間というのは、ほんの数人ですよ。僕も自分のことをその中に含むと思いますからジャパニーズホラーが成果を上げて単純に嬉しいことは事実です。けれどヒットしたことによって、成功がただお金に換算されてしまうのでは、意味が無い。なぜなら、それではブームが去れば、もうホラーは作らなくてよい、ということになってしまう。実際、海外では未だに人気がありますが、日本国内ではジャパニーズホラーなんて、飽きられ始めている。本当は単純な商業的な成功を目指して始まったのではなく、日本映画という枠を守りながら、どうしたらハリウッドに対抗できるか、という実験としてあったのがジャパニーズホラーですから、なんとしても続けていきたい。そればかりをやるわけではないけれど僕は続けてはいきたい。『ロフト LOFT』も通常のジャパニーズホラーとは違いますが、なんとかハリウッド映画に対抗できるように、とはいえ、ハリウッド映画とは同じスケールでは作れませんから、日本映画としてどうするかを考えて作りましたね」
─── それでは、逆に黒沢さんが考える“ハリウッド映画”とは、どんなものなのでしょう?
K: 「これは一言では言えないところがハリウッド映画の複雑さでもあるのですが、やはりハリウッド的なものというのは、人間や出来事をある一面でしか捉えていないと思うんです。その分あるキャラクターが際立つというか。馬鹿なヤツは終始、馬鹿。善人は常に善人。怖いことは、常に怖いことして起こる。人間も出来事もある一面出でしか切り取らない。それは、上手くやると凄く面白い映画になるのも事実ですが、人間というのはいろいろな面があるし、出来事も見方を変えれば捉え方は様々であると、本当は皆知ってるわけです。ただ、近年、複雑になっているのはアメリカ以外の国からハリウッド映画的な一面的な映画も数多くあるし、逆に多面的な物語を構成する従来のハリウッド的なものを破壊するような刺激的な作品がハリウッドから生まれている。代表的なのはクリント・イーストウッドとスティーブン・スピルバーグだと思いますが、彼らは大メジャーの中でそうした作品を作り続けているのだから本当に脅威です」
─── その一面的ではない、多面的な映画づくりを、この『ロフト LOFT』でも意識されていることは十分に伝わってきました。
K: 「“怖い”というのを突き詰めていったのがジャパニーズホラーのひとつの面だと思いますが、今回の『ロフト LOFT』はもちろん怖い映画として観ていただいて構わないのですが、まあ、いろんな捉え方があると思うんですよ。怖いという出来事も見方によっては滑稽だったり、ロマンチックであったりするわけで。例えば、作品の冒頭で中谷さん鏡のぼんやり見つめているシーンがあるのですが、あの表情を見て、怖いという人もいれば、美しいという人もいる。また、もちろんこれはホラー映画なんですが、海外の映画祭でも何カ所か笑いが起こる場所がある。調べると全部、豊川さんのシーンなんですよ(笑)。恐怖を表現するテンションが突き抜けて、ある種の笑いを呼び起こすんだと良い風に解釈してます。別に狙ったわけではないのですけれど、そうした多義性は迫真の演技だからこそ出るものなんだと思います。逆に誰もが同じ反応をするという方が不自然ですよ。怖さの中に笑いがあり、笑いの中に怖さがある。出来事の多面性を捉えるのが本来の映画の力だと思っていますし、それが日本映画がハリウッド映画に対抗できる方法のひとつだと僕は思っています」
─── そしてこの『ロフト LOFT』では観客へのサービスというわけではないのでしょうが、衝撃的なラストが待っています。これは、予想できなかったわけではないのですが、やっぱり驚きました(笑)。
K: 「やり口は若干唐突かもしれませんが、僕としては必然の結果なんですよ。僕としては倫理的なラストだと思ってます(笑)」───END
ロフト LOFT
監督・脚本/黒沢清
出演/中谷美紀 豊川悦司 西島秀俊 安達祐実 鈴木砂羽 加藤晴彦 大杉漣
2005年 日本
1時間55分
9月9日(土)より、テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほか全国公開。
www.loft-movie.com
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