THINK PIECE > Interview with Kiyoshi Kurosawa
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黒沢清 Kurosawa Kiyoshi
1955年兵庫県生まれ。立教大学在学中より8mm映画を撮り始め、『しがらみ学園』で1980年度ぴあフィルム・フェスティバルの入賞を果たす。その後、長谷川和彦監督、相米慎二監督に師事。83年、『神田川淫乱戦争』で商業映画デビューを飾る。以後、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(85)、『地獄の警備員』(92)などで熱狂的な支持を集め、92年には、オリジナル脚本「カリスマ」がサンダンス・インスティテュート・スカラシップを受賞し渡米。97年黒沢清の名を世界に轟かせた『CURE キュア』を発表、ロッテルダム国際映画祭でも大きな注目を浴びた。99年には家族を題材にした『ニンゲン合格』(ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品)、初のラブストーリーとなる『大いなる幻影』(ヴェネチア映画祭招待作品)、00年には“カリスマ”という木をめぐり、闘い、真理を見いだして行く男を描いた『カリスマ』(カンヌ国際映画祭監督週間正式出品)で確固たる評価を得る。以降も、インターネットを通じて伝染していく恐怖を描いた『回路』(01/カンヌ国際映画祭ある視点正式出品)、世代を超えた人間同士が生き続けるなかでミライを予感させていく『アカルイミライ』(03/カンヌ国際映画祭コンペティション正式出品)、もう一人の自分=分身に出会ってしまった男の姿を根底から浮き彫りにする『ドッペルゲンガー』(03/プサン国際映画祭オープニング作品)等、圧倒的な作品力で世界中から大きな注目を浴び続けている。最近では、カフカの「変身」を彷彿させる短編『楳図かずお恐怖劇場 蟲たち家』(05)等がある
最新作『ロフト LOFT』が間もなく公開される日本映画界が世界に誇る鬼才監督、黒沢清。いわゆるジャパニーズホラーの先駆者であり、ヨーロッパを中心とした海外での高い評価を得るも、その独特な作風から“難解”とのレッテルを貼られがちなのも事実である。確かに黒沢の作品には、一筋縄ではいかないある種の“難解”さがあるのは事実であろう。しかし、その難解さは、日本映画がハリウッド映画に対抗するための試行錯誤から生まれた実に真っ当な戦略ゆえのものだったのである。
いわゆるジャパニーズホラーを遠ざけながら、ハリウッドには出来ない表現を追求して完成された黒沢流のホラー映画であるこの作品は、黒沢清の考える“アンチ・ハリウッド、ポスト・ジャパニーズホラー”が体現されている。
─── さまざまなジャンル、あるいはスタイルで映画を撮リ続けている黒沢さんの作品中でも、今回の『ロフト LOFT』は、いわゆるホラー映画に位置づけられるものですよね。しかし、昨今のジャパニーズホラーブームとは一線を画した存在感があります。
黒沢清
(以下:K)
「もともとホラー映画というジャンルは、悪く言うとデタラメな、つまり現実の世界からはみ出てていくというところに面白さがあったわけですが、いわゆるジャパニーズホラーとわれる一連の作品は可能な限り現実の世界のディテールを取り入れ、ビデオであるとか携帯電話であるといった身近なものから恐ろしい事件が起きるという風にパターン化している。それはそれで素晴らしい発想なんですが、そればかりやっていると当然アイディアは枯渇するし、自由であるはずのホラーというジャンルを狭くしてしてしまうと思うんです。それで、今回の『ロフト LOFT』はジャパニーズホラーからはどんどんはみ出ていこうと。70年代、80年代のホラー映画というのは森が出てきて、沼が出てきて、非常に熱いラブストーリーがあったりしたものですが、そういうものを今回は取り入れて、ジャパニーズホラーではない、昔ながらのホラー映画に戻したというところはあります」
─── かつてのB級ホラー映画へのオマージュとも取れるような設定を、現代の日本で活躍する俳優たちが演じるわけですが、決して古さを感じさせず、むしろ新鮮なものを感じました。これまでも黒沢さんの作品では常に絶妙なキャスティングがなされてきて、それが黒沢作品の魅力のひとつであると思うのですが、今作では、またひと味違うカタチでキャスティングの妙が表れていると思います。
K: 「キャスティングに関してはこちらの希望どおりにいかないこともあり、偶然の出会いというのも大きいものです。中谷美紀さんと豊川悦司さんは、僕にとって初めての役者さんだったのですが、2人ともいつかは出演してもらいたいと思っていましたね。中谷さんの役は最初のイメージでは、もっと年齢が上の女性の設定だったんですが、会ってみたら本当に成熟した女性で。非常に計算された演技と全く計算の無い“生”の演技のバランスを取るのが本当に上手い。もちろん美しいし、素晴らしい女優さんですね。また、今回は何でもアリのホラーにしたわけですから、時間や空間を超越した、現実の世界とは異なる映画の中だけの世界を表現したかったわけです。豊川悦司という俳優は、まさにそのような異世界の住人なんですね。豊川さんが全面的にとてもノッてくださって、それで成立したところもありますから、この作品は」
─── 豊川悦司演じる大学教授・吉岡が中谷美紀演じる女流作家・春名礼子を無理矢理、異世界に引きずり込む。それを豊川さんがハイテンションの演技で見事に表現していました。
K: 「もちろん素晴らしいのは2人だけではありません。今作はいわば寓話というか、ファンタジーの方に踏み出した作品なわけですが、100パーセントその方向に行ってしまうと、さすがに白々しいものになってしまう。中谷さんと豊川さんによる寓話的な森の中の物語がメインになっているところに、時折、現代の東京の殺伐としたものを持ち込んでくるのが西島秀俊さんの演じる木島なんですね。脚本を書いている段階で、この役は西島くんに演じてもらいたいと考えていました。すべての価値観が崩壊してしまって、嬉しいときも、悲しいときも、褒めるときも、罵るときも全く表情が変わらない、心の中が空洞化してしまった人間の役。これを西島くんは非常に上手く演じてくれた。僕としても会心の出来といえますね。そしてその対局にあるのが、安達祐実さん演じる、とってもやっかいな、僕も上手く説明できない存在。この非現実的な役柄を安達祐実さんは、本当は疑問もたくさんあったと思うんですが(笑)、こちらのどんな要望にも「はい、わかりました」と明るく言ってくれて、本当に助かりました。安達祐実さんというのも豊川悦司さん以上に生活感が無い不思議な存在。もちろん実際に会うと、普通の方なんですが(笑)。いつもそうですが、今回ほど俳優の方々に助けられた作品はないですね」
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