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THINK PIECE

KIYOSHI KUROSAWA

『岸辺の旅』
生きているものと死んでいるものの間を撮るということ

15 9/29 UP

photo: Chikashi Suzuki
interview: Tetsuya Suzuki

 

──
では、原作を読まれてすぐに、彼らへのオファーを思い立ったのですか。
「スケジュールの問題などもあり、いろいろの条件が重なってくるので、高望みはしないと思いつつも、最初から迷い無く、この二人にお願いしたいと考えていました」
──
実際に、浅野忠信さんと深津絵里さんと撮影を進めて行く中で、演出的に意識されたことはありますか。
「これが特に何も無いんです。事前に作品の狙いのようなものは伝えたのですが、“脚本を読んで、どこかやりづらいところはありますか? ”と聞いたところ二人とも特にないと。無いわけないだろう、と思うんですけど(笑)。おそらく彼らくらいのレベルになると、脚本を読めば、映画の目指すことと自分たちがやるべきことのピントが瞬時に合うんでしょうね。さらにすごいのが、彼らは相手の出方や反応によって、そのピントを調整することもできるんです。監督である僕が突然前言をひるがえして“やっぱり、こっちの方向に向かってください”と言ったとしても、“では、こういうことですね”と自分で答えを導くことができる。そのやりとりの連続のなかで、完璧に演じきって下さいました。経験を積んだ頭の良い俳優は自分の役が人間としてどうだとかは関係なく、物語が何を要求しているのかだけを考えるようです」

 

──
なるほど。監督から細かな指示をされることはほとんど無かったということですね。それは、他の作品でもそういった方法をとられているのでしょうか。
「もちろん若い俳優さんで“これはこういうことでしょうか”と聞かれる方もいるので、そういった場合は答えられる範囲で答えます。積極的にここはこうだからと言うことはほとんどないですね。よく誤解されるのは、僕の方から言わないのは、わかっているのにあえて言わないと受け取られがちですが、そうではなく、どう演じればいいのか僕も全然わからないから、言いようがないだけなんです(笑)」
──
カンヌ映画祭で監督賞を受賞されて、どういったご感想をお持ちですか。
「カンヌ映画祭レベルになると、自分の映画が出品されるだけでもう十分満足で、それ以上にならない方が無難だと思っていました。というのも、大きな映画祭には映画レースならではの残酷な面があり、下手に賞なんか取ると、逆に一斉攻撃されることもあるからです。なので、賞に選ばれたと分かった時は、大喜びをして華やかな気分に浸りもしましたが、“なんでこんな作品に賞が? ”とか“認めない”といった厳しい批判がメディアに載ったりしないかとひやひやしました。実際はブーイングも無く、ホッとしたというのが正直な感想です。あとは監督賞というのは、名目だけで、作品全体の力によって受賞したのだと考えています。ものすごいことを監督としてやり遂げたように思われがちですが、現場で僕が何をしていたかなんて、皆さん知らないわけですから(笑)。なので、なにやら気恥ずかしいという気持ちもありましたね。優秀な俳優と優秀なスタッフなしに、優秀な映画なんてできるわけないんですから」

 

 

──
とはいえ、Kiyoshi Kurosawaという名前がヨーロッパを中心に広まり、今では世界的な支持とともに多く知られるようになったことの証だとも感じます。
「そうですね。覚えやすい名前なのかも知れません(笑)。でも海外の方が、全員でないにしても、喜んで観てくれるのは励みになりますね。負け惜しみではないですが、とある作品が日本で100万人観たと聞くと僕なんかとてもじゃないけど……と思いますが、世界各国に1万人ずつ作品を観てくれた人がいると考えると合計100万人くらいいるかもと思い、心の支えにはなりますね」
──
海外では、どのような部分が受けていると思いますか?
「客観的にはわかりません。しかし、世の中のほとんどの映画がハリウッドを頂点とする娯楽映画か映画祭で受賞するような
作家主義的な映画のどちらかなわけです。そうったものがきれいに分断された形で存在しているような中で、僕はその中間にいて、どちらも行き来していることが珍重されているのかなとは思います。他の代表的な人は、デイヴィッド・クローネンバーグという監督だと思うのですが、次の作品がどちらの要素が強いのか、観てみないとわからない部分は興味をそそるのかも知れません」
──
アーティスティックな感性と職人的なテクニックのどちらも兼ね備えていらっしゃるということですね。
「よく言えば(笑)。逆にいうとポリシーが無いようにも思えますが、自分のような監督の映画を面白いと感じていただければ光栄です」

 

 

『岸辺の旅』

監督: 黒沢 清
原作: 湯本 香樹実「岸辺の旅」(文春文庫刊)
脚本: 宇治田 隆史、黒沢 清
出演: 深津 絵里、浅野 忠信、蒼井 優、首藤 康之、柄本 明、小松 政夫
2015年/日仏合作/128分©2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
10月1日(木)ロードショー!

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