honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

THINK PIECE

groovisions firstlight

書籍とアプリの連動エキジビション、
「グルーヴィジョンズ ファーストライト」

15 7/08 UP

photo: Erina Fujiwara
interview: Tetsuya Suzuki
text: Misho Matsue

 

──
モノマニアとして認識されていたのではないかと。
「そうそう。でも、僕はそんなにモノマニアというわけでもなく、こういうかたちで身の回りのものを集めてみると、別に卑下してるわけでもないんだけど、全然面白くないんですよ(笑)。もちろんそれぞれのアイテムは優れたモノばかりですが、自分にとって、いたって普通のものが並んでいるという、あまりのつまらなさが逆に面白くて。ただ、作品集やchappieとは違って、かなり自分が出ているとは思います」
──
自分が出れば出るほど、つまらないものになる(笑)。
「(笑)。あとはスポーツにまつわるものが多いのもあって、たとえば登山靴にしても自転車にしても、身体を介する時点でどうしても限界を意識するんですよね。そこが面白くて。僕はここにこそ、リアリティを感じられるんです」
──
それは、道具によって自分の身体的な機能を拡張するのではなく、身体的な限界を知れるのがいい、と。最高スペックの装備で出かけた冬山が寒くて辛かったら、もうこれ以上の場所には行けないとか。それって、いわゆるガジェット好きの人とは逆ですね。
「だから全然ロマンがないんですよ。ガジェットに対しての夢もないし、別に好きでもないし(笑)」
──
ところで、この7年間でグラフィックデザインが持つ意味や意義は変わったと思いますか?
「変わったと思います。もっと広く、良い意味で拡散して、誰にとっても身近なものになってきている。その都度、一から作る必要はないわけですからね。選ぶという意味でのデザイン作業は、これからもっとやりやすくなると思います」

 

──
誰かが選んだものをまた選び直しているのかな、とも思います。
「それで良いと思います。自分にはファッションも全体的にそういう感じに思えます」
──
グラフィックデザインの在り方自体が世の中の変化を反映しているということでしょうか。
「そうですね。それは多分、コミュニケーションの質ではなくて、量によると思います。グラフィックデザインってどうしても情報の量と切り離せない。だからあまり過剰なデザインは必要とされていないように感じるし、意識しなくても、誰もが“デザインみたいなもの”を考えるようになっちゃっている。あとはそれが簡単に実現できるツールを開発できればいいような気はします。もちろん、そうではない圧倒的な強度のデザインが必要な場合もあるけれど、それ以外のコミュニケーションや情報があまりにも膨大になっていて。昔だったら、企業のアイデンティティは絶対に必要だったけれど、よく考えたらそこを主張しなくていいんじゃないの?ロゴでなくてアイコンで十分、という局面までは来ていると思います。こういった傾向はこの10年で加速したし、そこを含めて面白いな、と」
──
「デザインと意識させなくするデザイン」が増えてきているということですか?
「あるいは、デザインが邪魔になってくるケースも生まれている気がします。でもそれはデザインの在り方が変質しただけで、“排除する”デザインも生まれているわけだし、それは“プラスする”デザインよりも知恵を必要とするのかもしれません」
──
そういえば、groovisionsって写真のアートディレクションはあまりしていませんよね。写真の場合は、世界観や奥行きを作らなければいけないこともありますが、そういったことはお好きではないのでしょうか。
「そうですね。僕らは一言で言えちゃうところまで記号化するのが得意なんですが、その際、写真の持つ情報量と奥行きが邪魔になったりするケースも多いんです。もちろん写真でないと絶対に出ないようなスピード感というのもあるけれど、それは僕らよりもっと上手い人がたくさんいますから。あとはデザイナーにはありがちですが、写真を撮る時にはどうしても画作りをしてわかりやすく物語を作ってしまうので、そういったドラマティックなイメージって写真本来の力とは違うようにも思っているんです」

 

──
たとえば世の中には、浅いレベルでのドラマ性というか、「人間ていいね、生きてるって最高!」みたいな、徹底的に軽い、無邪気な人間性の肯定もあるじゃないですか。割と今のファッションに顕著なのですが(笑)。
「そういう方向の能力は明らかにないと思います」
──
では、groovisions的なニヒリズムは、ファッションの世界にある表層的なオプティミズムより罪がない、と?
「全然ないと思います(笑)。むしろ僕らは庶民派なので。徹底的な軽さって、実は庶民からは生まれてこないような気がしますし。そういう意味では、僕らのやっていることは民主主義的な表現で……、わからないけど(笑)」

──
徹底的な軽さの行き着く先が、ある種の「退廃」であれば、それも欧米のブルジョワ由来の概念じゃないか、という……。
「もちろんそうです。生きていくために働かなくていい人からしか、ラジカルな軽さは生まれてこないような気がしますね。あとは野蛮さもないし。日本人の優しさが邪魔をしているというか、肉をもっと食わないと、みたいな」
──
血の滴るステーキを笑顔で貪るアメリカ人から見れば、ほとんどの日本人は鬱病でしょうね(笑)。その日本的な鬱をそっと支えるのがgroovisions。
「でも、日本人にはそういった精神疾患的な気質があるからこそ、優れたグラフィックも多いのだと思います。僕らみたいな一歩も外に出ようとしないグラフィックデザイナーは、日本の庶民の味方だと思いますよ(笑)」

 

groovisions firstlight

会期:2015年6月19日(金)〜8月23日(日)
会場:EYE OF GYRE(東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F)
開場時間:11:00〜20:00
Tel: 03-3498-6990