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THINK PIECE

AMI Alexandre Mattiussi

自身の名前の略語であり、"友人"という意味の名を持つブランド
"AMI"のデザイナー、アレクサンドル・マテュッシ

14 3/26 UP

photo: Shoichi Kajino interview & text: Misho Matsue

 

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スーツのジャケットを腰に巻いたり、ヴィヴィッドな柄を合わせたり、それぞれのルックのスタイリングにも個性が表れていますね。
「たとえば、あなたは仕立てが良く美しいジャケットを着て空港に降り立ったとします。さっそく街に出るけれど外は暑くて、両手も荷物で塞がっている。そんな場面では、腰に巻くという選択にはリアリティがあるでしょう?そうでなくても、服はクリスタルではないのですから、何気なくテーブルの上に置くこともあるでしょうし、常にケアしながら大切に着る、というのには少し違和感を感じるのです。特にメンズモードにおいては、一糸の乱れもない“完璧さ”が売り物にされることが多いと思います。もちろん他のブランドを悪く言うつもりはないので勘違いしないでいただきたいのですが、ひとりの消費者としてはそういったファッションはチャーミングには思えない。私はモデル体型ではないので、いくら高価でラグジュアリーでクリエイティヴな服を提案されても、袖を通した時にピンと来ないというか。たとえ寝起きのまま髪の毛もヒゲもきちんと整っていなくても、自分らしさがしっかり出ていれば、それがその人のスタイルとして成立すると思うのです。ショーの前のスタイリングについても同じで、完璧な補正をするというよりは、モデルがリアルに見えることに重点を置いています。ですからショーの後、もし彼らがこのままストリートに出たとしても、きっと自然に見えるはずです」
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コレクションにおいてそれぞれのルックはどのように完成するのでしょうか。
「次の秋冬コレクションだったら、レングスやバランスで遊びたい、タイムレスなピースをクールに見せたい、などもちろん核となるイメージは持っています。でもやはり、スタイリングが完成するのはモデルと向き合った後。すべてのモデルに自分らしく着てほしいし、心地良くあってほしいですから。たとえばこのルック (写真: 右) についてはもともと、グレーのスウェットシャツに赤いパンツにジャケットを羽織る、という組み合わせを想定していました。しかしフィッティングの段階でモデルがあまりにクールだったので、いろいろ試したうえで全身を赤でまとめたスタイリングに落ち着きました。結果的に彼も自分らしいとすごく気に入り、自信を持ってウォーキングに臨んでくれました。これはAMIにとってはとても大事なことです」
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AMIが瞬く間に世界中で注目されるようになったことについて、もちろんあなたの才能やアイデアが広く受け入れられているのが第一にあるとはいえ、この時代に後押しされているような感覚はありますか。

「もちろん。まず私自身、いまを生きているわけですし、友人や家族に囲まれてよく働く、というシンプルな暮らしをしています。私の場合は仕事とプライヴェートはリンクしているので、地に足を付けて着実に進んでいかなければならないのは感じています。ご指摘いただいたように、短期間でここまで評価されていることは誇りに思う一方で、この成功はチームのものでもあります。私にとっていちばん大切なのは、ハードに、そして楽しく働くことなので、たとえばすべての皆さんへの感謝の気持ちを込めて、プロダクトのタグには“(with love)”と縫い付けてあるんです。せっかくこんなに素敵な仕事に携わっているのですから、もちろん情熱もありますし、この気持ちを皆さんとシェアしていけたらと思っています」

 

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最後に、あなたのシグニチャーである赤いビーニーについて、何かいわれはあるのですか。
「子供の頃から髪の毛のカールがきつくて、放っておくとジャクソン5みたいになってしまうので(笑)、髪の毛をおさえるためにニットキャップをかぶり始めたのがきっかけです。でもかぶっているうちにだんだん心地良くなり、自分の一部になってしまって。赤いビーニーはもう10年はかぶり続けていると思います。セントジェームスで購入して以来、至るところで指摘されるようになりましたが、かぶっていない時に『レッドビーニーはどうしたの?』と尋ねられ、やっと自分がいつも身に付けていることに気付いたくらいです。そういうわけでトレードマークにはなっているものの、マーケティングのつもりはまったくないんですよ(笑)。そういえば実は最近、フランスで政治的なデモが起こっているのですが、何百、何千ものデモ参加者たちが皆、抗議のシンボルとして赤い縁なし帽をかぶっているのです。メディアで真っ赤なデモ行進の写真を見た時には驚き、『どうしよう、政治的な意思表示に取られてしまうかもしれない!』と心配したのですが、これはまったくの偶然でした。私はいまやアイデンティティでもあるこのビーニーを、政治的なメッセージには使いたくありません!」