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THINK PIECE

FILTH

アーヴィン・ウェルシュ原作の映画最新作はクライムコメディー
最凶最悪刑事ブルース・ロバートソン参上

13 11/29 UP

photo: Kentaro Matsumoto text: Nagako Hayashi

 

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確かに、ブルースもナルシストです。一方、女性に大変モテますよね。最低な人間ですが、警官としては優秀で、出世に意欲がある。今、日本にはブルースのようにパワフルで、上昇志向で、野心剥き出しの元気のいいおじさんが少ないので、日本の女性には魅力的に映るかもしれません。
「イギリスでも、この映画はマッチョなので、男性に人気があると思ったのですが、公開してみたら女性人気が高かった。彼は危険な男で、典型的な虐待男ですが、そういう男に惹かれる女性もいる。ある種のカリスマを感じるんでしょう。狩人が獲物を求めるように、自分から求めてしまう。自分は違う、クールだと思っている女性の中にも、『あの手の男と付き合いたくはないけれど、映画で見ている分にはいいわね』と思う人もいるだろうね(笑)。また、元カレにそういう男がいたけれども、その元カレがブルースのように、まだ自分のことを諦めきれなくて、狂ってしまうと想像することは、とても気持ちが良いと思う(笑)。『結局私のことまだ好きなのね』、『私、立ち直れないくらい良かったでしょ?』、『私こそが、ああいう悪い男を食い物にしてやった悪い女なの』、『私にはかなわないわね』って(笑)」

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「ざまあみろ」と(笑)。ブルースのトラウマが暴かれていくにつれ、共感したり胸を痛めたりする女性もいると思います。映画ではジェームズ・マカヴォイ氏が見事に凄まじい演技を披露されていましたが、彼の演技はどうご覧になりましたか。
「本当に注目すべき演技です。ブルースはとても複雑な役柄で、ジェームズはあらゆる感情を演じ分けているのですが、特に、スクリーンに映し出された妻と子供の思い出のビデオを見ながら、友達の奥さんに猥褻な悪戯電話をかけ、マスターベーションするシーンでは、笑って、泣いて、攻撃的になる、あらゆる感情を演じ分け、また演じ切っています。これには、とてつもない技量が要る。普段のジェームズは、ブルースとは全然違っていて、最初に会った時、40歳過ぎて離婚したアル中の刑事役としては若すぎると思ったのですが、彼は有能な役者なので役を作り込んでくれました」

 

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マカヴォイ氏は役作りのために、毎日ウィスキーを相当量飲んで撮影に挑まれたとか。
「そう。顔がむくんだアル中のブルースになるために飲んでいましたね。撮影中は、カメラの前で頬をぱんぱん叩いたりと彼は常に中年男のむくんだ感じを出そうと努力をしていた。普通は、役者もエージェントも年上の役を嫌がり若い役を希望しますが、彼は勇気があった。また、とても知的で、ジョン・S・ベアード監督が、『彼は将来、監督になるのではないか』と言っていたのですが、カメラワークやライティングなどにも細かく注意を払っていたのが印象的です」
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映画には、プロデューサーとして参加されたんですよね。脚本はすべてベアード監督でしょうか?
「そうです。ジョンは共同執筆しようと言ってくれたのですが、私が入ると原作に近くなりすぎるし、一度終わった本に立ち戻ることも嫌だった。映画版としての新しい視点が必要だったので、ジョンには『いちいち確認しなくていいから、これでいいと思う段階になったら見せて』と言いました。

その9ヶ月後くらいには出来上がった脚本のハードコピーを、家のドアの下から差し入れてくれたのですが、それを読んだ時、いい映画が出来ると確信しました。それからすぐにキャスティング会社や配給会社の人に会い、イギリスやオーストラリアでは脚本のみでプリセールが決まったんです。日本のパルコも脚本とマカヴォイの配役がついた段階で買ってくれた。これはかなり珍しいことで、すべてジョンのパワフルな脚本のおかげです」
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最後に、映画『FILTH』を心待ちにしている日本のファンに、一言コメントをいただけますか。
「是非、見て下さい。マカヴォイの演技は、『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロ、『テイク・シェルター』のマイケル・シャノンに匹敵する、またはそれ以上に魅力的。単にクレイジーなだけではなく、ペーソスや哀しみも溢れている。みな、心が引き裂かれるような気持ちになると思います。シェークスピアやギリシャ悲劇のような、壮大な演劇としてのスケール感もある映画です」

 

フィルス

原作:アーヴィン・ウェルシュ
監督:ジョン・S・ベアード
出演:ジェームズ・マカヴォイ、ジェイミー・ベル、イモージェン・プーツ、
ジョアンヌ・フロガット、ジム・ブロードベント、エディ・マーサン
配給:アップリンク パルコ
http://www.uplink.co.jp/filth/

シネマライズ他にて全国ロードショー中