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THINK PIECE

MASANORI MORITA (STUDIO APARTMENT)

スタジオ・アパートメント森田昌典による、ダンス・ミュージック・シーン変革計画。

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text:honeyee.com

プロデューサーユニットSTUDIO APARTMENTのプロデューサーとして、ポップシーンのアーティストのプロデュースやリミックスを手がけ大ヒットを連発する一方、DJとして国内外のクラブシーンで活躍する森田昌典。今回リリースするミックスCD、"TOKYO HOUSE UNDERGROUND"では最先端のハウス・ミュージックをフィーチャー。ポップ・フィールドとクラブシーンを股にかけて活動する森田が企てる、ダンス・ミュージック・シーン変革計画。

森田昌典

DJとして日本全国及び世界各国で活動。阿部登とのトラックユニット・STUDIO APARTMENTとして、これまでに5枚のオリジナルアルバムを発表。代表曲である"Flight"は、海外の様々なレーベルがリリースしたコンピレーションやMix CDに、何度も収録される程の世界的ヒットを記録。また、世界最高峰のレーベル・Defected (UK)とも契約し『STUDIO APARTMENT In The House』をリリースしている。国内ではメジャーアーティストのプロデュース及びリミックスを数多く手掛け、確固たる地位を確立。2006年には STUDIO APARTMENT主宰のダンスミュージックレーベル「Apt.」を設立し、国内アーティストの発掘育成や海外アーティストによる良質作品をいち早く日本 に紹介している。
http://www.studioapartment.jp/

 

──
この”TOKYO HOUSE UNDERGROUND”という企画は20年前に日本初のハウス・コンピレーションとしてスタートしていますが、日本においてはハウス黎明期であった当時と、シーンとして成熟し始めた現在とでは、その意味合いもかなり異なってくると思います。
「20年前といえば、ハウスは日本においてほとんど認知されていない音楽でしたが、世界的に見るとまさに黄金期でした。新しいアーティストがどんどん現れて、シーンとしてすごく盛り上がっていた時期だったと思います。その熱を日本においてどうプレゼンテーションするかと考えて、生まれたのが当時のTOKYO HOUSE UNDERGROUNDでした。それから20年が経ち、日本でもハウス・ミュージックというものが浸透、大衆化され一通りのピークを迎えました。その上で、今度は日本からハウス・ミュージックを世界に発信しようといった試みが今回のTOKYO HOUSE UNDERGROUNDです」

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今回のMix CDは、森田さんがスタジオ・アパートメントとして音源化するものよりも、DJとして現場でプレイするものに近いと思うのですが、シーンが成長したことでこういったテイストのCDが受け入れられるようになったということなのでしょうか?
「正直、そういう環境は今の日本には無いと思っています。さらに言えば、こういった音源をリリースするアーティストもレーベルもなくなってきています。その中でスタジオ・アパートメントは、日本のポップ・フィールドを意識した楽曲制作する一方で、海外向けのダンス・ミュージックのプロダクションを続けてきて、ある程度様々なシーンから認知されてきたと思います。影響力のあるアーティストが真のダンス・ミュージックを伝えていかないと、日本のシーンはこのまま無くなってしまうと思いますし、今の日本では僕らがその立場にいるのではないかと感じたことで、今回のMix CDを制作するに至りました」
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シーンに必要なエデュケーションを提案する義務感を感じているということですよね。
「それをしようとするアーティストも少ないですしね。日本の音楽業界では本来ダンス・ミュージックではないものが、レーベルやメーカーの意向でダンス・ミュージックとしてパッケージングされて売られているんですが、そもそもそれが間違っていると思うんです。そういうことが積み重なって、Jポップとダンス・ミュージックが間違って認識されることで、シーンが育たなくなってしまっているんですよ。海外なら、グラミー賞であってもロック、R&Bに並んでダンス・ミュージック部門というものが普通に存在するじゃないですか。それはお隣の韓国ですらそうなのに、日本にはそれがない。これはどうにか変えていきたいと思っていますね」

 

──
ダンス・ミュージックというカテゴライズがあやふやになっていることで、一般のリスナーにとっては何がダンス・ミュージックなのかさえ分からなくなってしまっているんですね。
「キックが4つ打っているリズムならダンス・ミュージック、という安易な認識ですからね。音楽業界がそんな認識でいたら、一般の方にとってはなおさら分かりづらいと思います。それならば、アーティストが音やその活動で伝えていくしかないじゃないですか。今、このMix CDと平行して、スタジオ・アパートメントのニューアルバムを制作中なのですが、これは一聴すると完全にJポップなんです。現在の日本のクラブシーンは本来のクラブよりも、ディスコと呼ばれる箱の完全勝利状態で、本来のクラブシーンは下降しているはずなのに、ディスコには平日すら1000人近い集客があって、週末になると1500人以上集まる。そういう層にもアプローチしていけるようにならないと、広がりが持てないと思うんですよ。そこで、そういうシーンでもプレイできるような楽曲を作ろうと考えたんです。でもそこにはギミックが隠されていて、よく聴いてもらうとビートやリズムは完璧なダンス・ミュージックになっているんです。ダンス・ミュージックとしてのマナーやクオリティを維持しつつ、Jポップというフォーマットを利用することで幅広い層に少しずつでも本来のダンス・ミュージックを伝えていきたいと思っています。それに、同じ内容の楽曲でも、クラブ・ミュージックとしてパッケージングするのと、Jポップとして打ち出すのでは、店頭での扱いが全く変わるんですよ」