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THINK PIECE

The Elder Statesman

ラグジュアリーという言葉が
マーケティングやブランディングに操られる時代は終わったと思う

11 10/19 UP

text:Jun Namekata

──
今回日本で展開するコレクションについて教えていただけますか?
「今回日本で披露したのは、11月に店頭に並び始めるホリデーコレクション。テーマを設けるレギュラーコレクションとはまた違って、ひとつひとつのアイテムが個々に成立しているコレクションなんだ。ホリデーコレクションを展開するのは今回が初めてで、今までやりたかったけれどできなかったものを形にしたもの。シーズンテーマに当てはまらないとか、そういういろんな事情で心の中にしまっておいたアイデアを集めて、こうやって発表する事に決めたんだ」

──
テーマに制限されていないという意味では、よりデザイナーのパーソナルな個性が出ているコレクションなのでは?
「そうかもしれないね。レギュラーコレクションではあまりできないとても手間と時間のかかるアイテムも作っているし、そういう意味では凄く自分に近い存在だと思う。ただ、知っておいてほしいのが、<The Elder Statesman>は“継続して”進化していくブランドだということ。それぞれのシーズンコレクションが個々に成立しているというよりも、<The Elder Statesman>というひとつの大きなコレクションとして位置づけているんだ。だから昔の商品も、今発表している商品も、いつでも作る事ができる。僕にとってのラグジュアリーの定義というのは、本当に欲しいものをいつでも買えるということだと思っているから」
──
消費されてしまう一過性のラグジュアリーではないという事ですね。具体的にデザインをする上でもそういった時代に左右されない普遍性のようなものを意識しているのですか?
「それぞれの糸の性質とか、編み方や撚り方、あるいはテクニックにあったフォームに最終的に行き着いているという感じかな。なにかこう『こういったフォームを作りたい』という出発点があるわけではなく、もうちょっと自然な形でデザインを完成させていると思う」

 

──
こういったニットウエアはともすると野暮ったくもなりがちだと思うんです。でも実際袖を通してみてもそんな印象は受けないし、モダンなイメージさえある。なにか工夫があるのかと思ったのですが。
「それはきっとあなたの捉え方だよ。逆にこのコレクションを見てクラシカルな印象を受ける人もきっといるでしょう。さっきも言いましたが、それぞれの解釈で良いんです。頭からつま先までゴシックな服に身を包んだ凄く若いお客もいれば、もっと年配のクラシックな雰囲気のお客様もいて、彼から同じピースをそれぞれの思うように着てくれているというのが<The Elder Statesman>。でもそれはとても自然な事。僕自身、なにかものを買うときというのは、本当にパーソナルな理由で良いと感じるからこそ買うのであって、広告に影響される事は一切ない。自分がそうであるように、皆さんにもそうあってほしいし、このブランドの性格ももともとそういうものなんだと思う。“ラグジュアリー”なんていう言葉はとっくに使い古されている感があるけれど、マーケティングとかブランディングに操られた“ラグジュアリー”を追いかける時代はもう終わった。僕はもっと、個々の内面やエモーションに働きかける、原点に立ち返ったラグジュアリーを創り出したいんだ」