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THINK PIECE

YO-KING

YO-KINGの「生の声」が詰まった
『スペース 〜拝啓、ジェリー・ガルシア〜』

10 8/10 UP

photo: Shoichi Kajino text: Tetsuya Suzuki

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そして、その「防護服」を脱いだことによりこちらはタイトルからして厄介なテーマであることを想起させせる『ライセンス・トゥ・精神世界』のような曲に正面からぶつかることもできるようになった?
「これは確かにキワドイ曲なんですが、でも、いままでもずっと『こんな曲出して、大丈夫?』みたいな曲をやり続けてきたところもあるし。で、面と向かって誰かに怒られたこともないので(笑)、その辺は実は案外大丈夫というか自由でいいのかな、って考えているんですよね。まあ、お笑いでも毒がないと退屈だし、いじられキャラっていうのもいるでしょう。いじってあげないと輝かないというか(笑)。だからその範囲内というか、むしろ『いいじゃん、何が悪いの?』っていう感覚で続けてきたところは、あるのかな。そのかわり、誰かに自分が槍玉に挙げられたときはね、キーってなるんじゃなくて、甘んじて受けよう、と」
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真心にしろ、ソロにしろ今まではどちらかと言えば、常に「揚げ足を取る側」であったと思うんです。でも、そろそろ、それもやりつくして、今度は「揚げ足を取られる側」になりたいな、なんて気持ちもあるんじゃないですか?
「ある、ある(笑)。僕が年下のスタッフと積極的にコミュニケーションをとるのはそういうところもあります。20年以上この世界でやっていて、一番詰まらないのは、現場でおそれ多い存在になってしまうことだと思うんです。ツアー中も20代前半のローディの子をいじって、逆にやり返されて、って時が一番楽しいですね」

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その一方、「揚げ足を取る」といっても、つまり、スクウェアな世の中を揶揄しようとしても、実は、世の中の方が自分たちよりスクウェアでなくなっているという局面もありませんか?
「ええ。社会のほうがスクウェアではない、というのは本当にそう思いますね。堅い話になっちゃうけれど、これだけ学校や家族というシステムが崩壊して、学歴社会も終身雇用も崩壊しているわけでしょう。この現実を見ると、自分たちは何か大切な物を壊してしまったんじゃないかな、と思うこともあります。『あの頃の方が良かったんじゃないの?』というような。オヤジはいつもアタマが硬くて、学校の先生は規律に厳しくて、っていうのがあったからこそ、それに反発することもできたんじゃないかな。今の世の中は何を言っても『そうだね、キミの考えにも一理あるね』っていうふうでしょう。そういう環境の下では力のあるカルチャーが出てくるか微妙だな、とは思います」
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そういうなかで、今作に特徴的な「気負わないメッセージ性」の表現の仕方は、これがYO-KINGの今のスタンダードなのかな、とも思うのですが。
「どうだろう。ただ、今回見えたのは、音楽をつくる上で自分が楽しみたいといのと同じくらい、誰かが喜んでくれる姿を見るのが好きなんだな、っていうことが改めて分かったんですね。そして、おこがましい言い方かもしれないけれど、何かの助けになれば良いな、と思っています。何事においても、考え方ってやっぱり凄く大事だから。僕は『考え方』についていろいろと考えてきて、何かが起こるたびに『これをどう考えれば、楽しめるのか』っていうことを考えてきたから。だから、『こういう考え方があるよ』っていうのを音楽の楽しさの先に提示できればいいなと思っています。あくまで『音楽、楽しいな』が先ですけど。僕のライブに来てくれて『音楽って、楽しいな』って思ってもらえたら僕は大満足。で、その先にある、僕なりの処世訓というか、日々の生活の中での『楽しくなる方法』みたいなものを感じ取ってもらえたら嬉しいですね」

 

YO-KING 『スペース 〜拝啓、ジェリー・ガルシア〜』

1,529円[税込]
KSCL-1620
Ki/oon Records