THINK PIECE > Interview with Mike Binder
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『インディアン・サマー/タマワクの英雄たち』、『ママが泣いた日』など、ユーモアと知性のバランスに優れた作品をこれまで世に贈り出してきたマイク・バインダー監督。その彼が9.11というシリアスなテーマを扱いながらも、センチメンタリズムに陥ることなく、ハイセンスなヒューマンドラマに仕上げた新作『再会の街で』について語る。
 
 
「這うようにゆっくりでもいいから回復していこうよ、というアメリカ市民としての希望をこめたんだ」
 
「人々が毎日歩いている街並み……舗道のレヴェルからすべてを見ようとしたんだ。実際のテロやグラウンドゼロの映像を挟むんじゃなくてね」
 
『再会の街で』は“そこ”に暮らす者の視点から9.11を描いたはじめての映画だ。監督マイク・バインダーはあの日、NYにいたという。そして一年半後ふたたび訪れたとき、想像をはるかに越えてニューヨーカーたちの傷が癒されていなと感じたのが物語の発端となった。
 
グレアム・ナッシュの「シンプル・マン」をヘッドフォンで聴きながら、原付キックボードでNYの街なみを滑るように駆け抜けていくアダム・サンドラーの姿で映画ははじまる。まさしく「下から目線」そのものだが…。
 
 
「あれはね……実はシルヴァーサーファーの視点なんだ。マジでオマージュなんだよね(笑)。母星が爆破されて家族を失ったという境遇も似てるし」
 

いきなり「ファンタスティック・フォー」かいっ(笑)。なんでも監督は大のアメコミ・ファンということだが、本作の主人公チャーリー(アダム)も、あの「飛行機事故」(劇中、市民はそういう言葉で事件を言うのだ)で妻子を一瞬で失ってしまった男だ。

 

「とてつもない喪失を経験したチャーリーは、妻と出会う前の音楽とゲームに逃避して、自分の殻に閉じこもったきりになっている。でも事件からこれだけ時間が経つと、あの記憶から逃れたい周りの人々や社会は、いつまでも前に進もうとしないチャーリーをもう見捨ててしまおうとするんだ。それで彼はますます内向的になり、現実をまったく見ようとしなくなる」

 
一方、彼と偶然再会する旧友アラン(ドン・チードル)は、仕事も家庭も順風満帆に見えるが…。 
 

「さまざまな責任の重圧から、アランは自分の人生を送っていないと感じている。でも自己中心的に思われるのが怖いし、“やりたいようにやりたい!”なんてとても言い出せないんだ」

 
 

アランのそうした現代男性ならではのジレンマは直接9.11と関係ない、と監督は言うが…。

 
「チャーリーとアラン、ふたりの理由はまったく異なるけど、本当に言いたいことを誰にも話せないって悩みは同じなんだ。でもアランは自分よりずっと悲惨な状況にある旧友の現在を知って人生を見つめ直すし、チャーリーは突然現れた友人とコミュニケートすることで少しずつだが癒されていく」
 

しかし再会後のふたりには、急激に親密度を深めるような劇的な出来事が起こったりするわけでもない。映画の進行とともにゆるやかに判りあい、癒しあい、自然に結びついていく。それがとても美しい。

 

「ラストシーンも何も解決するわけではないし、さほどハッピーでもないしね(笑)。でもそこに、這うようにゆっくりでもいいから回復していこうよ、というアメリカ市民としての希望をこめたんだ」

 
 
 
 
それにしても最近、シリアス・アクターとしても進境著しいアダム・サンドラー。魂を引き裂かれるような苦しみにもがきながらもどこか飄々としたチャーリー像は最高に素晴らしいが……あれれ、なんだかボブ・ディランそっくりじゃないかい?
 

「そうそうそう(笑)。あれ、意図したワケじゃないんだけどね(笑)。そもそも顔が似てるんだよ。チャーリーの心境からして、髪なんて梳かしちゃいないだろうなとボサボサ頭のウィッグ作ったんだ。そしたらディランになっちゃった(笑)」

 
 
 

『再会の街で』

 

監督・脚本:マイク・バインダー
製作:ジャック・バインダー、マイケル・ロテンバーグ
製作総指揮:ジャック・ジアラプト、リンウッド・スピンクス
出演:アダム・サンドラー、ドン・チードル、ジェイダ・ピンケット=スミス、リヴ・タイラー、サフロン・バロウズ、ドナルド・サザーランド、ロバート・クライン、メリンダ・ディロン、マイク・バインダー
2007年/アメリカ
原題:Reign Over Me
上映時間:124分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント



http://www.sonypictures.jp/movies/
reignoverme/strangerthanfiction/


絶賛上映中 恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開

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