PHOENIX
僕らは僕らの“フレンチネス”を愛せるようになった フェニックス、パリ18区でのレコーディング速報!
08 6/20 UPDATE
フレンチ・バンド、フェニックス。2006年のサード・アルバム『It's Never Been Like That』の世界的成功を受けて昨年夏まで続いたワールド・ツアーも終了し、穏やかな日々を過ごす4人。その間、ヴォーカルのトマにはソフィア・コッポラとの間に愛娘も誕生し、プライヴェートでも素晴らしく充実した幸せなムードにあふれている。さらに昨年の春以降は彼らと顔を合わせるたびに既に制作に入ったという新作のことが話題にのぼる。月曜から金曜までの毎日パリの18区のスタジオに通っているのだという。「まだ一曲も完成していない」という段階ながら、いちはやくスタジオを訪れ話を聞いた。
レコーディング作業の合間、スタジオの向かいのカフェに抜け出してクリスチャンとブランコの二人に話しを聞いた。
──レコーディングの進み具合はどうでしょう?
Branco(以下B)「もう80~90%はできたように思うよ。まだ一曲も完成していないけどね(笑)」
──?
Christian(以下C)「僕らは特殊な方法を習得したんだよ。曲を一曲ずつ作り上げているわけではないから、今は最後の大きな戦いに備えてトレーニングを重ねているような状態」
──ヴェルサイユ、ベルリンときて、今回はついにパリでレコーディングなんですね?
C「曲の書き方を変えたくて、だから時間がたっぷりとれるパリ市内でレコーディングしようと思った。僕らが借りているのはカシウスのフィリップ・ズダールの大きなスタジオ。とてもカスタマイズされて、いわゆるプロフェッショナルなスタジオではないのだけど、欲しいものはすべて揃っているし素晴らしいスタジオだよ」
B「セバスチャン・テリエが前作『POLITOCS』をレコーディングしたのもここだね」
──今回フィリップ(・ズダール)とはどのような関わり方でアルバムを作るのですか?
B「彼がスタジオを貸してくれて、僕らは毎日たくさんの家賃を払う…(笑)」
C「(笑)彼は時々スタジオに来て、お互い音作りに関してアドバイスしあっているよ」
──今は完全に4人だけでレコーディングしてましたが、今後フィリップがミックスの卓をいじったりしないんでしょうか?
C「今の時点で具体的に分からないんだけど、きっと何らかの方法で手伝ってもらうことは出てくるよ。彼には明確な方法があるし、何より彼は音楽の構造を知っているからね」
──フィリップとは古い友達ですよね。フィリップ・ズタール、セバスチャン・テリエ、ダフト・パンク、エール…そしてフェニックス、そのフレンチ・コネクションは本当に強力ですね。
B「そう、このメンバーに加わるには長いプロセスが必要だろうね(笑)。フィリップが(デビュー・アルバムの)『UNITED』をミックスしてくれて、彼とはそれからの知り合いだね。今回はまず最初にこのアルバムを“ヨーロッパ”でレコーディングしようというステートメントがあってね。アメリカでもなくイギリスでもなく──ほら、イギリスはヨーロッパじゃないから(笑)──それで結局フランス、それもパリ市内の彼のスタジオでレコーディングすることに決めた。僕らはたくさんの“フレンチネス”を使ってアルバムを作りたいと思ったんだよ」
──“フレンチネス”?
B「そう“フランスらしさ”」
──自分たちの音楽やスタイルのどこにその“フレンチネス”を自覚しますか? 具体的には…。
B「(沈黙)」
C「(沈黙)――とてもよい質問だね。」
B「これには答えられそうにないな。例えばとてもエレガントな人に『あなたはどうしてそんなにエレガントなんですか?』と聞いているようなもんだよ」
──ごめんなさい。僕も英語で歌うフェニックスというバンドがいかに“フレンチ”かをいくら文字を使って説明しようとしても、うまくいかないのと同じだと思います。
B「でも実は僕らはこれまではずっとこのフランスからエスケープしようと必死だったんだ。ほとんど監獄のようなもんだからね」
C「君が日本をエスケープするようにね(笑)」
B「でも、世界をツアーしていろいろなバンドの音を聴いて比べたときに、フェニックスというバンドを決定づけていいるのは、僕らのフランスらしい音だと気づいたんだ。言葉にはできないけれど、分かるだろう?──それで、僕らは最終的に僕らの“フレンチネス”を愛せるようになった」
C「旅をするのは好きだよ。かつてフランソワ・トリュフォーがそうだったようにね。旅をしていて、ふとホームシックのような感情があふれてくると、不思議とよいアイデアが沸いてくるんだ。」
──そういえばツアーの最後には南米にも行ったんですよね。
C「素晴らしかった。前回のツアーのワン・オブ・ベストだったよ。南米は初めてだったからエキゾチックだったし、たくさんの発見があった。なかでもブエノスアイレスは建物や街の雰囲気はどこかヨーロッパのようなのに、やっぱり南米のムードに溢れていて、エキゾチックなのに懐かしいような完璧な街だったよ」
──世界を旅したことで、より自分たちの“フレンチネス”を再発見したということですが、これまでは自然に醸し出されていたフランスらしさというものが、こんどはその“フレンチネス”を意識しすぎてしまうことで逆に別のものになってしまわないでしょうか…その辺は結構難しくないですか?
B「確かに、言い得ていると思う」
C「気をつけないとね。今回、曲を書く段階では、美しい場所で過ごしていこうと思いついたんだよ。まずは、ちょうどこの同じ通りにあるアパートを一ヶ月借りた。19世紀の有名な画家ジェリコがアトリエに使っていた部屋で…」
B「アーティストのバイブレーションを感じれる心地いい場所だったんだ」
C「そのアパートにギターとキーボードを持ちこんで曲を書いた」
B「その次はエッフェル塔の下、セーヌに浮かんでるボートを借りたよ」
C「それから、ニューヨークでは6週間過ごしたんだ。まず最初の10日はホテル──ホテルの大きなテラスに機材を持ち出して毎日ギターを弾いて曲を作っていたもんだから最後にはちょっと知られてしまっていたけどね(笑)。それからニューヨークでの残りの一ヶ月ほどはまたこれも画家の使っていたと言う部屋を借りて過ごしたんだ」
B「そんな感じで録音した1000ものラフな音源をパリのズダールのスタジオに集めて、録り直したり編集したり…という具合」
──まだ数曲の断片だけしか聴けなかったけれど、今の時点でどのようなアルバムになりそうですか?
B「よりミスティックなものにしたいね」
C「ある点ではよりシンプルに、でもディテールではより複雑なものになっていくはず。それから音触的にはライヴよりも“スタジオ”な感じにオーガニックなものを加えていきたいんだ」
──楽しみです!それから、今の時点でそれ以上に話せることは?
B「これだけ話しておいて、君はまだシークレットが必要だというのかい(笑)?」
C「じゃあ、とっておきのシークレットを教えようか(笑)。今回僕らは特定のレコード会社との契約がないままでアルバムを制作しているんだ。いったんVirgin/EMI Franceとの契約は終わって、完全にフリーな状態。日本でも良いレコード会社があったら紹介してね(笑)」
Photo & Text:Shoichi Kajino