Le Baron Night with Sebastien Tellier

Le Baron Night with Sebastien Tellier

セバスチャン・テリエがLe Baronのグランド・ピアノを前に歌った夜

08 5/13 UPDATE

ぼさぼさにのびた髪にたっぷりたくわえられたあごひげ、大きなサングラスと片時も離すことのないタバコ。この少々むさくるしい大男こそ現在のフランスを代表するアーティスト、セバスチャン・テリエである。代表曲である『La Ritournelle』が'00年代最高のラヴ・ソングであることはすでに確定している。

そのセバスチャン・テリエは今年2月、オリジナルとしては5年ぶりのアルバム『Sexuality』を発表した。ダフト・パンクのギ・マンと共同でプロデュースしたこのアルバムはフランスではリリース前から話題沸騰、今年のユーロヴィジョン(毎年ヨーロッパ各国を代表するアーティストが選ばれ、その年のヨーロッパのナンバーワンを決定する伝統的なコンテスト)のフランス代表の席は彼のために用意されたほどである。

4月下旬、『Sexuality』のプロモーションのため、束の間の来日を果たしたセバスチャン。この機に彼をホストに迎えてのスペシャルな夜を南青山 Le Baron de Paris で計画した。ライヴは出来るかどうか分からないと言いながらも、いつもはフロアの端っこに追いやられているグランド・ピアノがスポットライトを浴びて正面に置かれている。彼の所属するReciord Makersのレーベル・プロデューサー、マーク・テシエやレジデントのジャン・マリー・デルベスらによる妖艶な選曲が続く。深夜をまわった頃、その大男がのっそりと髪をなでつけながらスポットのもとに現れ、おもむろに鍵盤に向かった。ワイングラスをピアノの上に置いてすぐに『La Ritournelle 』の長い前奏を弾き始めた。集まったファンからの驚喜のどよめき。いかにも易々とその時の気分でアレンジや歌い方を変えてしまうセバスチャン、歌い終わったかと思えば彼は拍手の中でフロアに臥して腕立て伏せをしてみせる。これはシャイな彼なりの照れ隠しのようなものだ。さらに曲間に必ずタバコに火をつける彼はなんと鼻の穴にタバコを突っ込んで鍵盤に向かう。歌いながらも常時ニコチンを摂取するとはいかにも彼らしい。とはいえ、これら数々の奇行はすべてが彼のナイーヴさの裏返しであることはその繊細で美しい音楽を聴けばすぐに分かるのである。

この夜、セバスチャンのファンでもあるというDexpistolsの二人やrevolverのKiriくんもサポートに駆けつけてくれ、そのあとのパーティを盛り上げてくれた。そしてセバスチャンとマークはといえば、酒とタバコをきらさないまま朝を迎え、そのまま成田空港へと旅立っていくのである。

今回はピアノで3曲と半分を披露しただけにとどまったセバスチャン、現在ツアー中のフルセットでのライヴでの再来日を強く期待したい。

Text:Shoichi Kajino

『Sexuality』
Sebastien Tellier
(Record Makers)


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