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数いる現役のファッションデザイナーのなかで、真のスターデザイナーと呼ぶにふさわしい人物のひとりがトム・フォードであろう。映画監督のデビューも果たし、世界中のメディアに時折掲載されるポートレイトからも滲むプレゼンスは、特別なクリエイターだけが持つものに他ならない。

そのシグネチャーコレクションは、シーズンごとに拡張し、我々の想像の遥か上をゆくスケールを突き進んでおり、存在そのものが「ジャンル」と呼ぶにふさわしい。ここ最近コレクションに登場しはじめたカジュアルなウエアも、これまた圧倒的な完成度で構成されている。

選び抜かれたアイテムはすべて、そのオリジンを完璧にリサーチし、まさに写しともいえる精密さでディテールを踏襲している。それらに現代の最高水準ともいうべき素材を合わせることで、これまでにない常識を覆すヴィンテージ感を打ち出している。鮮やかな色彩のきめ細かいパイル地のラグビーポロシャツ、シルク混紡のコットンで仕立てられた立体的なシルエットのポロシャツは、まさにその典型例である。

さらに驚くべきことは、そのどれもが「ブリティシュ」というキーワードの下に選ばれている、ということにある。仮にそれが一般的にアメリカで発展したイメージが浸透しているカジュアルな既製服であっても、選び抜かれたスタイル・アイテムのすべては、なにかしらの視点でイギリスの文化背景に根ざしたものなのである。このエッセンスがコレクションの風格をさらに高めている。

まさに、映画の舞台セット、または衣装レベルの再現力と、モードの帝王とまでうたわれるデザイナーのクリエイティビティとの融合は、彼が敬愛するミース・ファン・デル・ローエの建築さながらの、モダニスト的な完璧主義と、固有のセンシュアリティに包まれている。

Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato