Nigel Cabourn
既製服のコンテキストを引用し改良する、
ヴィンテージコレクターによる新しい実用服。
09 12/08 UPDATE
世界屈指のヴィンテージコレクターとして知られるファッションデザイナー、ナイジェル・ケーボン。彼が打ち出すコレクションは、そのリソースとなるヴィンテージやオリジナルとも異なる、独特の重厚感を持っている。ファッションにおいて、マニアックさのサジ加減の是非は難しいものがあるが、彼の場合は確実にプラスに働き、それが外観だけでなく、着用時における機能となって、どこにもないスタイルを作り上げている。
その実例として、こちらの2点について述べると、左のニットは、1930年代のカーディガンをベースに、身頃の布帛はドイツ軍のヴィンテージファブリックを忠実に再現している。ニッティングの技術にも長け、単なる装飾などは一切なく、すべてが実用に基づいており、緻密な計算によって行われている。付属も抜かりなく、ファスナーはウォルデス社のもので、大戦モデルのスライダーがセットされ、引き手にはタフなレザーストリングが取り付けられている。
右側のピーコートのスペックも尋常ではなく、単に高品質といった類いのモノとは、クリエイションの主旨が大きく異なっている。1950年代のイギリスの沿岸警備隊が着用していたモデルを研究し、さらに精度を高め、忠実に再現されたディテールのみならず、そこから開発した素材などによって、ヴィンテージの欠点であった生地の硬さや重さを見事に克服している。それを可能としているのが、頑丈さとしなやかさを、それいて軽さも備えた、超高密度のスペシャリティなメルトンなのである。
ナイジェル・ケーボンの製品の奥深さは、桁外れの造詣だけでなく、単なるリプロダクトで留まらないクリエイションの質にある。それは、ファッションの世界によくありがちな懐古主義でもなければ、安易に新しさを求めたものでもない。既製服の文脈からタウンユースとしての実用性を高め改良されたウエアは、既存のファッションブランドにはない個性があり、偽りのないオーセンティックなムードを有している。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato