CAROL CHRISTIAN POELL
ジャンルの進化を促進させる天才が見せる、
ファッションにおけるミニマリズムの極地点。
09 8/27 UPDATE
約一年の沈黙を破りコレクションを再開したキャロル クリスチャン ポエル。あらゆる意味で型破りなデザイナーとして知られるポエルだが、今回は、大半のファッションブランドが年2回のスパンで行っているコレクションの発表を、なんと一回の展示会で一年分のピースを見せ切り、関係者の度肝を抜かせた。この発表の方法は、セールスの面では確実にデメリットやリスクが伴うが、その分クリエイションの密度は高められ、PRに依存せずに製品の内容のみで直球勝負する、彼ららしいスタンスを貫き通した着地点なのだといえる。
実際に製品のレベルも飛躍的に向上しており、それは単純に、クオリティやコストパフォーマンスという尺度では量りきれないほどの複雑な様相を見せている。もっとも顕著に彼らの進化の一端を見せているのが、自社開発の特殊なセルビッチの生地を使用したシリーズであり、こちらに並ぶ右側のトラウザーがそれに該当する。
一般的にセルビッチは、ジーンズのアウトシームなどで見られるが、セルビッチ=生地の端であるため、この部分を使うとなると確実に余り地が出るため、必然的にコストアップへと繫がる。そこでポエルの場合、セルビッチを使う意図は、あくまでもシームを減らすことにあって、限界までミニマムな縫製で仕上げることにある。そのため、従来のジーンズとは比較にならないほどのセルビッチの箇所を多く用いるため、一枚のアイテムを製作するために、通常の数倍もの生地が必要となってくる。これは生産面から考えれば非効率極まりないが、こうした常識を度外視してこそ辿り着ける境地に見事に達している。
つまりこれは、素材・縫製・パターン・コンセプトなど、製作に関するすべてに対し妥協という言葉を取り払い、ジャンルの進化を促進させるような創作を行っている、ということに当る。
ただしこれは2009現在のキャロル クリスチャンポエルにとっての最上であって、その理想を追求し切った完成度ゆえに、誰しもが共有できるゴールではない、という事実も見逃してはならない。これは衣服と身体との関係性から考えれば当然のことであり、製品が厳密なパターンであればあるほど、その対象は限られてくる。いうなれば、ポエルのコレクションはこの不完全さこそが創作の密度と直結しており、なんとも人間的な魅力を放っている。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato