SIR TOM BAKER
テーラー界の異端児が発案する、
新しいレディメイドのあり方。
09 7/21 UPDATE
このおおよそトレンドと掛け離れたテーラードジャケットは、ロンドンのテーラー界の異端児トム・ベイカーによる、レディメイドの新境地ともいうべき逸品である。
波瀾万丈というと少々オーバーに聞こえるかもしれないが、彼はそれに近い人生を送った末にテーラーの世界へと辿り着き、サヴィル・ローでも一目置かれるハーディ・エイミスの下で修行を積み、独立後、自身のスタイルを極めていった。伝統的なテーラリングの技巧に、直球ともいえるUKロックカルチャーがのった作風は、多くの著名人を虜にしている。
その真骨頂はいうまでもなくオーダーメイドによるスーツなのだが、こちらのジャケットは既成服でありながら、いたるところに注文服の仕様を用いることで、シャープなラインと快適なフィッティングに、品質の善し悪しとは異なる類いの雰囲気や重みを加えることに成功している。これは実際に袖を通した上で、相対的に他社の製品と比べれば大旨理解できることで、ここでの情報で掴みきれるような簡単な話ではない。
やはりパターンを熟知しているデザイナーは、漠然とただいい素材を使うといった安易な思考はなく、理想の立体にすべく、あくまでも目的に適した素材を選ぶことに徹底している。これを怠ると、それまでの過程で得たことが一気に手元からこぼれ落ちてしまうため、テーラリングと呼ぶにふさわしいレベルとなれば、決して手の抜けない重要なパートなのである。このような一見当たり前のように思えることほど一流は抜かりはなく、そのさらに上に個性をのせ、独自の高みへと到達している。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato