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アクロニウムは主催者であるエロルゾン ヒューの並々ならぬ探究心から創造される異色のファッションブランドだ。その特色を挙げると、圧倒的なスペックもさることながら、いわゆるファッショブランドのビジネスのルールから若干距離を置き、独自の時間軸で創作活動を行っていることにある。

その証拠に、彼らはジャケットひとつであっても製作期間を数年単位で設け、発売後も何度も修正を行い、ただひたすら完成度を高め続けていくという手法をとっている。これはファッションの世界でかつ小規模での展開ということが前提であれば、極めて稀なケースである。さらにはビジネスの側面からすると、仮に同じ労力を費やすのであれば、多少なりとも商品のバリエーションを増やしていく方が数字に繫がる可能性も高まるのだが、そのベクトルのほとんどを製品の進化へと注ぎ込む精神構造は驚くべきものがあり、当然ながら開発されたアイテムは常識を遥かに超えたレベルに達している。

このジャケットを例に挙げると、ファッションブランドでは世界で唯一使用が認められているゴアテックス社のプロシェルをベースに、消防士向けに開発された瞬時に脱げる機能を持ったエスケープジップや、両袖に付く片手で袖口からモバイルを取り出せるグラヴィティーポケット、ルイ・ヴィトンがドイツのYKKに別注した強度の高いスナップボタン、イヤフォンを内側から出せるスリットと、それを襟元につけて維持するための磁石のコマが入ったフォースロックを装備するなど、ファッションアイテムはおろか、方向性こそ違えど、アウトドアのギアに負けず劣らずのスペックを保有している。

これらを単にオーバースペックだとまとめてしまうのは実にナンセンスで、オリジナリティの追求や時間の付加に耐えうるためのアプローチの一環として捉えるのが妥当であろう。その結果、ジャンルレスというよりも、むしろ新しい時代のビジネスモデルを創出するかのような展望が可能となり、他社では味わえない魅力を打ち出している。

Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato