Damir Doma

Damir Doma

特異な才能と明確なヴィジョンを持った、
モードシーンを象徴する次世代の才能。

08 12/19 UPDATE

ここ最近、ファッションの世界における映像表現が、以前にも増し盛んに行われている。時にはランウェイの変わりとして、時には静止画像では伝えきれない商品説明など、その用途は多様化しているが、企業やクリエイターの建て前はさておき、主な目的は、あくまで商品のプロモーションである。さらに、視覚と聴覚に訴えかける動画という手法は、コマーシャルという側面からも非常に有効的な方法であると同時に、正しい選択だといえる。

パリメンズプレタポルテコレクションで注目を集める新進気鋭のデザイナー、ダミール・ドーマもすでに動画に着手したひとりだ。先日東京にて作品を発表した際に、ファッションを中心にクリエイション全般について話をうかがった。

「来日は今回で二度目になりますが、東京にはいい印象を持っています。街並もそうですし、人々もそうです。なによりヨーロッパ圏と比べると、この世界的な恐慌におけるネガティブなムードが、若干異なっているように見えるのです。ヨーロッパはこの厳しい現状に対して、もっと強く感化されているように見受けられます。日本のファッションはそこまで詳しくないのですが、巨匠と呼ばれるようなデザイナーとして、三宅一生さんには興味があります。もちろんそれだけでなく、もっとローカルな感覚でコミュニケーションを行っている若手のデザイナーの活動も目立っているように感じられます」

ダミールのコレクションはとにもかくにも勇気のある内容だ。この不況もあって安易なリアルクローズ風の製品に逃げるファッションデザイナーも多い中で、彼は自身の感性やオリジナリティを信じている。この場合、それは慢心ではなく、ありまのままの自分で、といったニュアンスが正しい。

「私はすでに今後のヴィジョンが明確にあるので、それに向けてどう動きどう表現するかを重点に考え活動しています。ファッションの世界もいろいろなタイプのクリエイターがいると思いますが、アイディアがすぐに浮かんで進められる人もいれば、いろいろな形式をとりながら完成へと向かう人もいるでしょうし、私は自分を信じることで前へと歩んでいくタイプで、内面から出てくるイメージをひとつずつカタチにしていくことで、表現を行っているのだと思います。だからシーズンごとで様変わりするのではなく、根幹的な部分では、すべてが継続されているのです」

彼の衣服の特徴のひとつとして挙げられるのが、ドレープ感がある緩やかなシルエットで、どちらかといえば厳密なパターンを追求していた最近のメンズウエアと傾向と比較しても、その個性は顕著にあらわれている。

「私はファブリックを重要視しているので、そこで一枚の布から独創的なパターンを創造していく、というような感覚であったりプロセスを、常に意図しながら制作を行っています。そうすることで、自分だけのヴォリューム感であったり、シルエットといったものが、はじめて手に入るのだと思います。クリエイトするということに関して、私はあまり境界という概念がなく、衣服に対してもそうで、それがユニセックスなニュアンスも生んでいるのかもしれませんね。従来メンズウエアはウィメンズをと比べて選択の幅が狭く感じますが、しかしリンクする部分も多々あるので、その可能性を少しずつ広げていきたいのです。プレタポルテの世界では世代交代の傾向も見えはじめていて、日本の若手デザイナーのパリでの活躍もまさにそうだと思います。なによりメンズファッションのマーケットは、もともと大きな規模ではないうえに、この世界的な不況は、つくる側にとっても大きな危機であるので不安はあります。この先は安易な製品が増え続ける一方でしょうし、だからこそ私たちクリエイターは、自分自身の感性をプロテクトしなければならないのです」

このようなドーマの姿勢は、ファッションにおける創作だけでなく、動画によるインスタレーションも同様で、これは間接的には商業的なプロモーションにも繫がる可能性もあるのだが、少なくとも本人の認識では、自己表現の以外のなにものでもなく、ファッションとアートにおける境界線もさほど意識することなく、自由に制作を行っている。つまり創作のベクトルは、既存のファッションデザイナーによる動画のプレゼンテーションとはまったく異質の内容だというわけだ。

「このインスタレーションはアレッサンドロ・ティネリとのコラボレーションによって完成したもので、私のランウェイにおけるシーズンテーマとの関連性はありません。ですが、コンセプトという意味では、私の衣服の制作と同一なのだといえます。撮影はオーストリアとドイツの中間にある場所で行い、期間は約一年かかりました。今日が公開の初日なのですが、昨日完成したばかりなので、まだ仕上がった実感が湧いてこないのです(笑)」

Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato

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