ACRONYM
ファッションとファンクションを複合した、
エルロンゾン ヒューのクリエイション。
08 12/15 UPDATE
カナダ出身で現在はドイツに在住するエルロンゾン ヒューが主催するアクロニウムは、ファッション性に優れた外装とミリタリーやアウトドアのギアに匹敵する機能性とが兼備されたアイテムを次々と世に送り出し、感度の高いファッションマニアを中心に注目を集めている。
以前からこの手のコンセプトをうたうファッションブランドは山のようにあるが、実質的に見合う内容を提示できた実例は、ほぼ皆無であるということが、事実も含めた真実といったところだろうか。そこで、この前人未到のクリエイションを可能にした理由を探るべく、エルロンゾンに尋ねてみた。
「子供の頃から建築家の父を見て育ったことが、僕がファンクションに興味を持った大きなきっかけかな。それと10歳で空手をはじめた時に、演武の型にどんな意味があるのかを考えながら学んでいた頃が、機能や動作についての関心が膨らんだ第2のフェーズだと思う。それがあって、最初にファッションの世界に入った時に、ミリタリーやワーク、アメリカンスポーツなどのウエアに自然と目に留まって、いまの方向に進んでいったんだと思う。去年まで12年間バートンの仕事をしていて、そこで学んだことを日常着としてどうクリエイトしていくか、これがアクロニウムをスタートさせた背景にある。機能面を充実させるのも、ファッショナブルにするのも、どちらか一方を高めるのは簡単だよ。でもその両方を強めるのは本当に困難な作業だね。例えば、僕がつくるジャケットは開発までにだいたい3年ぐらいの期間がかかる。そのあとテストを繰り返して改善点を探して延々と修正を行っているよ。商品のネームもソフトウェアのように、1.0からはじまりそれが1.1へと進化して、今では2.0ぐらいまでステップアップしたものもある。つまりは、あくまでもファッションのワンシーズンのタームで完結するのではなく、そもそも完成なんてものはないし、創作は果てしなくは続くわけなんだ。だからメンタリティの部分から、僕はいわゆるファッションデザイナーとは異なっていると思う。昔あるSF作家が『インターフェイスが進化すると透明になる』という話をしていて、僕はそれを好んで引用しているんだけど、ファンクションもまだすごいと騒がれているうちは発展途上で、本当にそれが浸透した段階、つまり成熟したのであれば、機能の特質は目に見えなくなるほど当たり前になっていると思う」
やはり話を聞けば聞くほど、アクロニウムの類い稀なるコレクションは、硬質かつ高密度であることが理解できる。さらにクリエイションの深部へと向かってみると。
「やはり形式と機能のバランスをとることが重要なんだと思う。もしどちらも正しく備わった場合、この2つを分離することは絶対にできない。だから僕のウエアは、ジャンルレスで着る人を選ばないというような利点もあるけど、体系で理解しようとする人にとっては難解なものかもしれないね。アクロニウムの製品は、実際に一ヶ月ぐらい着てもらなわないと分からないことが多いと思う。そこで新しいコミニケーションの手段として、4本の動画をつくってみたんだ。ウェブサイトでもたくさんの写真を掲載して商品の説明をしているけど、内容を伝えきるには明かに不十分だ。そのギャップを少しでも埋めるために、このプレゼンテーションに踏みきったというわけなんだ。もうひとつ動画をつくった理由は、僕のクリエイションの起点がアクションにあるということかな。ディテールの配置もそこから決まってくるので、製作のプロセスをみせるという目的も、この動画には含まれている」
こうして対面してみると、エルロンゾン ヒューという人間は、職人気質の頑固者でもなければストイックなタイプでもなく、柔軟な思考に基づいた上で、スペシャリストの中のスペシャリストともいうべき道を選択している、と思わざる得ないほど、彼の展望への眼差しはクリアだ。
大きな時代の変革へと差し掛かったいま、エルロンゾンのような優れたクリエイターの活躍こそが、細分化と均一化を繰り返すファッションの現状を打破し、未来を紡ぎ出す可能性をたぶんに秘めている。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Shusei Tsukahara
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