DAMIR DOMA
ジャンルを新境地へ導く才能が織りなす、
緩やかなラインが描く新時代のプレタポルテ。
08 9/26 UPDATE
ダミール・ドーマは、ダーク・ションベルガーやラフ・シモンズのもとで経験を重ね、デビュー3シーズンを迎える注目のファッションデザイナーである。
彼の優れた資質として第一に挙げれるのが、これまでのキャリアに依存しなくとも十分なプレゼンスを感じさせる、独自性の強い作風である。これは突発的なオリジナリティということではなく、少なからず2008年現在のメンズのプレタポルテでは類を見ないスタイルであるということと、いくつかの特異なファクターを有していることにある。
その中でなによりも強固かつ具体的な特徴といえば、柔らかい素材の特性を活かした緩やかなフィッティングであろう。ここ数年シーンを先導してきたメンズウエアの多くが、卓越したテーラリング技術を駆使した厳密なパターンによる美しいシェイプの創造であることに対して、彼の描くラインは、着るというよりも羽織るというニュアンスを強調している。そのため、着るという行為に対して、よい意味でのアバウトさが付加されている。
また一際目を引く大半のアイテムに取り付けられたドローコードは、衣服の形状の変化を担うだけでなく、装飾的な要素としても成り立っている。同じく付属されたボタンは、全体的なユニセックスなムードに反するミリタリーテイストであるため、全体のイメージに対してのコントラストとなって、より効果的な役割を果たしている。
メンズモードはいまや新時代に突入し、徐々に新しいルールの整備が行われているかのような状況下にあり、シルエットやグレーディングといった身体と直に関係する箇所においても必然的に新しい傾向が生まれつつある。突然変異でも起きない限り劇的な変化は起こりえないかもしれないが、この勇気あるドーマの創作のように、水面下では確かな進化の足跡が刻まれている。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato