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トム ブラウンは、NYのファッションシーンの動向を世界に発信したキーパーソンであり、現時点で、2000年代を象徴するファッションデザイナーのひとりに数えられる、並外れた才能の持ち主であることに異論をはさむ余地はないだろう。

2008-09A/WのNYメンズコレクションでは、「世界でもっともクレイジーなショー」と題されたエキセントリックなコレクションを発表し、多くのファッション関係者に度肝を抜かせた。円形のステージは、観者にサーカスを連想させ、冷笑を浮かべ歩くモデルは、まるでピエロのようであった。

もはやエンターティメントの域まで行き着いた演出もさることながら、主役である衣服も、並々ならぬレベルの高さをみせている。美しいテーラードスーツを中心に、伝統を踏襲する厳格な要素と、それらと対立するかのように、常識という名のルールの範疇を超えた、斬新なディテールの採用やアイテムの組み合わせを行い、新しいプロポーションを創造することで、とてつもないインパクトを残した。

アメリカが培ってきた服飾文化の歴史を重んじつつも、現代であることを意識し、グローバルなレベルで意匠を伝達するという目的だとするならば、今回のコレクションは奇抜どころか、確かな理念に基づいた合理的なアプローチなのだといえる。

Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Dan and Corina Lecca