GUSTAVO LINS
知る人ぞ知るモード界の功績者が発信する、新次元のプレタポルテコレクション。
08 6/05 UPDATE
グスタボ リンスはパリ在住のブラジル人で、かつてはケンゾーの実質的なテクニカルパートを担っていた人物であり、現在はジョン ガリアーノやルイ ヴィトンでの技術サポートをする、知る人ぞ知るモード界の功労者である。
その神髄を披露すべく立ち上げた自身の名を冠したプロジェクトでは、メンズとウィメンズの境界線に立つ、新しいバランスの衣服を開発している。
彼は優れたパタンナーでもあり、型紙ではなく石膏を用いてパターンを作り上げるという逸話を持つのだが、これはコマーシャルを目的とした奇抜なパフォーマンスでなく、経験に基づく確かな理念によって行われている。
その技術力を駆使した、人体の構造に基づき頸椎を保護するということからはじまる服作りは、オートクチュールとテーラーリングの狭間に位置するポジションに立ち、一枚の衣服で、男女それぞれ異なるプロポーションで着こなせるようになっているため、不思議なヴォリュームを形成している。さらには、完璧なリバーシブルでの着用を可能にした設計のため、表裏どちらもファッションとして成立するレベルで抜かりなく製作させている。いわゆる着心地という視点でも他を圧倒的に凌駕しているが、ここまでやりきれば、それも当然の結果であろう。
上記のことからも、とにもかくにも稀にみるグレードの高いコレクションであることは間違いないが、ここから彼らに問われる課題は、これが他のクリエイターやマーケットにおいて、現実的にどう響くか? という点に尽きる。
なぜなら、ファッションにおけるコミニケーションは、想像以上に複雑な要素が絡み合うため、作り手の意向を他者に伝達するということは、そう簡単なことではないからである。
そこでお互いが歩みよるためにも、消費者は巷の情報に依存せず、現物を手に取り判断するということが、この時代だからこそ必要なのかもしれない。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato