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ファッションはその性格上、表層での誤摩化しや虚構を成立させやすいジャンルであるが、これがすべてにおいて可能かというと、それはまずありえない。特に意識せずとも自然と表出される作り手の本質的な部分であったり、計算なくして象ることは出来ない難易度の高いパートで、これらはいとも簡単に露呈される。

アンスナムを主宰する中野靖は、「クオリティの上に成り立つクリエーション」という信念を持って、シーズンごとのテーマなどを設けず、ただただ服作りに没頭するスタンスでコレクションを作り上げているという。

特定のルールがないということは、自由度の高さゆえの難しさが伴い、本人が黙認してしまえば、すべてが事柄が成立してしまうため、裏返せば、常に危険と対峙している状態でもある。これを確実に回避する方法は単純明快で、日々研鑽を繰り返し、目の前に現れる壁をひとつひとつ確実に乗り越える以外の術はない。そのため、この方法論をとるならば、安易にコピーするのと比べ時間や労力を費やすが、オリジナリティは必然的に高まることが約束されている。

これを実践するアンスナムの衣服は、度重なる実験の結果、スタイリングとデザインが非常に高いレベルで交わるスタイルを手に入れている。また、彼らの姿勢に賛同するエキスパートらに支えられ、素材・パターン・テーラリング・縫製などのこだわりが、製品の質を司るすべての箇所に隅々まで行き渡り、共同作業によって完成にいたるというファッションの製作の醍醐味を体現している。

こうしたプロセスによって、ドメスティックやインポートなどといったカテゴライズを逸脱する、真の意味での世界水準のコレクションが、静かに、そして緩やかなペースで日々開発されていくのである。

Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato