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マルタン マルジェラの台頭と時同じくして、ファッションシーンの檜舞台へ登場した、アントワープシックスと呼ばれたベルギー出身の6人のデザイナー。アン・ドゥムルメステールは、これらのメンバーで、もっとも繊細な気質かつ、挑発的でアバンギャルドな活動を続けているクリエイターだといえよう。

ブランドのトレードカラーであるブラックは、空虚で冷ややかなホワイトと対照的に、暖かくすべての飲み込むパワーを秘め、これは彼女の創作のみならず、貪欲なまでにあらゆる事柄からイメージソースを取り入れアウトプットするという、ファッションのクリエイションと本質的に通じている。

2008S/Sでは、想像上のダダイストが南フランスで友人とともにバランスを過ごすというストーリーを基にコレクションを制作した。そもそもダダイズムとは、1910年代に欧米で同時多発的に起こった芸術運動であり、第一次世界大戦に対する反抗的でアナーキーな気分を背景とし、規制の秩序や常識、または市民社会に支えられた芸術を批判の対象としていた。今回のランウェイの冒頭は、ニューヨーク・タダの中心人物であったマルセル デュシャンへのインタビューの録音放送からはじまり、このことからも、デュシャンの存在が彼女に影響を与え、多大なイマジネーションをもたらせたことが推測できる。

現在のモードの主流のひとつとなっている上質なリラックス感に、それらとまったく別の文脈からファクターを切り取り構成する手法は、なんともコラージュ的である。その模様はこれらのアクセサリー類からも充分把握できることだろう。

停滞が続く今のメンズファッションシーンには、かってのダダのような破壊的な性格を持った刺激が少なからず必要とされ、これを実行できる人物こそが次の時代を牽引するリーダーとなりうるのかもしれない。

Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato