東京でのステージでは、ライヴ・セットにより、ついにそのヴェールを脱いだデジタリズムへのインタヴュー。
デジタリズムの音を初めて聴かされたのは、キツネのジルダが送ってくれたのが初めてであったから、当初てっきりフランスの新ユニットだと思い込んでいた。(トラック名の「Zdarlight」だってきっと、CASSIUSのフィリップ・ズダールの名前をモジっているに違いないと確信していたというのもある…)
「確かに僕らはRouleやCrydamour(それぞれダフト・パンクのトマとギィ=マニュエルの主宰しているレーベル)といったフレンチ・ハウスのレコードが好きでよく聴いていた。僕らの音楽には“フレンチ・タッチ”な何かは強くあると思うけど、同時に“メロディ・タッチ”でもあり“インディ・タッチ”でもあると思うんだ」。
「まず太いベースラインがあって、すべての音を最大にしてコンプレッションをかけたような感じ…はフレンチなのかもしれないけど、そんな構造よりも、作り込んでいくよりも勢いで作ってしまうというようなルードなパンク的な精神がよりフレンチな音楽とつうじでいる気はするよ」。
そう語るデジタリズム、イェンスとイシはハンブルグのレコード・ショップで運命的に出会ったのだという。音楽のテイストを共有する二人がともにDJをするようになり、一緒にトラックを作るようになり、はじめて自主制作で作ったホワイト盤がレコード会社に勤めていた友人のメーリングリストを介してキツネのジルダの机の上に届いて契約にいたる…ダフト・パンクやTIGAのリミックスも話題を得て、ヴァージンからメジャー・デビューというきれいな流れは、まるで準備されていたストーリーのようだ。
本来、エレクトロやテクノのシーンが強いドイツ、さらにそんな母国が生んだクラフトワークへのオマージュのようなアーティスト写真をみると、音楽的ナショナリズムを感じざるを得ない気もしつつ…「(笑)あれは単なる思いつきで、僕たちこそが新しい時代のクラフトワークだ、なんて主張しようと言う深い意味はないんだよ」とイシ。「僕らはベルリンではなくハンブルグに住んでいるというのもあって、ドイツのエレクトリック・ミュージックのシーンとの繋がりは希薄なんだ。さらに音楽はすべて地下室で作っていて、出来たと思ったらすぐにキツネに捕獲されてフランスに連れて行かれたようなものだから、むしろ今はフランスから逆輸入されてきた感じでドイツで取り上げられるのが面白いよ」と語るイェンス。
確かにむしろヨーロッパ、オーストラリアをまたにかけて起きているインディ・バンドとのリンクの方が強く感じられるのはシングルになったポップな「POGO」を聴かずとも明白である。
「たくさんのインディ・バンドからリミックスの依頼が来るのはとてもうれしいことだった。インディのシーンとの繋がりが生まれたことによって、インディ・パーティでも僕らデジタリズムの「ジュピター・ルーム」なんかがプレイされるようになったし、僕らのパーティでもカット・コピーやプリセッツ、フューチャー・ヘッズで人が踊ってくれる」。
キツネの宣伝文句にもなっていた『フランツ・フェルディナンドは“踊る”ためのロックを奏で、デジタリズムは“ロックする”ためのダンス・ミュージックを作る』という最近のこのシーンの交錯具合を表した言葉にも納得できる。
さらに言うなら、多くのメディアでも語られる「第2のダフト・パンク」というのは、僕は彼らを語るにどうしても使いたくない表現である。もしそういうのであれば…と、少々意地悪な僕は、ずばりJUSTICEの名前を挙げてみた。
「正直なところ、彼らと比較されるのは好きではないんだけれど、実際、互いの音楽やミックスは尊敬し合っているんだよ。僕らはお互い24歳と27歳という二人組で、レーベルのキツネとエド・バンガーはそれぞれ、ダフト・パンクのマネージャーのジルダとペドロが運営しているわけだし、いってみれば、ダフト・パンクを頂点にしたまさにトライアングルの下にいるように感じるよ」。こんな正直な回答を聞いて、この二人のオープンで気負いのないムードは彼らの音楽にも通じているのである。
個人的には正直なところ「POGO」でのデジタリズムのポップな裏切りは、インディ・シーンやコマーシャルなマーケットへの目配せか…と穿ってみてしまったのであるが…。
「この曲は3年も前に作り始めたトラックで、どうしてもヴォーカルをいれたかった。アルバムはゲストなしで自分たちで作りたかったというのもあるんだけど、『Idealistic』ではじめて自分たちで歌ってみて、それを発展させた…というのが事実かな」。そんな彼らの言葉を聞いていると、そんな穿った見方しかできない歪んだ自分を恥ずかしくさえ思ってしまったのである…。そう確かに僕のiTunesのデータの中にはこの元になった「POGO avec Paris Hilton」という未完成トラックが残っていたのである。
デジタリズム。直訳してしまうと「デジタル主義」というユニットながら、彼ら二人の頭の中はデジタル一辺倒などでは決してない。そのデビュー・アルバムを聴けば、彼らがインディ・ロックやニュー・ウェイヴ、さらにポップ・ミュージックとの異種配合にさえ、何の抵抗もなく向かうリベラルな精神の持ち主であり、あらゆるベクトルへと伸縮可能な存在であることが分かるはずだ。
Text : Shoichi Kajino
live photo: Masanori Naruse