遙か北の地、札幌からのヒップホップの刺客、ブルーハーブが、5年ぶりのサードアルバムをリリースした。彼らは、ファースト、セカンドアルバムで訴えていた方向性を、このサードアルバムで少し変えてきた。業界や同業者を直接的に非難するよりも、そのベクトルはリスナーの心の内側へ向けられている。
「何度も同じこと言ってもしょうがないからね。しかも過去の曲で言っていたことを訂正するつもりもない。それなら、今の状況から見えることを歌っていきたい。そうして突き詰めていったら、ライフストーリーというタイトルに行きついたんだ。自然な成り行きだよ。いまは素直に、正直に、思うことを歌うことができるね」(ILL-BOSTINO)
いままでは、ヒップホップに興味のある人の心にグサリとささるトゲを持っていた。しかし今作では、どんな人の心にも響く憂いを帯びている。テーマはより普遍的となり、誰にでも当てはまるような感情を歌い、そして彼ら自身、どんどん“開いて”いっている。それでも、テーマが変わりながらも、ILL-BOSTINOから繰り出される言葉は、相変わらず鋭く、キレがある。言葉が持っている熱量は素晴らしく熱い。また、楽曲としての完成度も恐ろしく高い。3枚目ということもあり、ふたりの熟練の技に、さらに磨きがかかっている。ラップとトラックが、まったく乖離することなく、ひとつの曲として、音の鳴り、押し引き、バランス、すべてを究極のマスターピースにすべく、練り込まれている。
10年かかって、やっと歌えるようになったというこのテーマ。言葉でいうことは簡単だけど、実感として体に感じ、“みずから辿り着いた”からこそ、その言葉が持つ意味、そしてそれを発する意味も大きい。とりあえず新たなスタートラインに立ったブルーハーブ。これからの彼らは、果たしてどのような道を辿っていくのか? どんな道を行くのであれ、そこに嘘がないことは確かである。
Text:Tomohiro Okusa
Photo:SUSIE