田舎町、隕石の落下、謎の生命体の侵略……まあ、よくあるSFホラーの設定である。何十年と繰り返し使われてきた、この“よくある設定”を愛でまくり、まさにB級SFホラー史を一本の映画でやっちゃったような作品が『スリザー』だ。
隕石から這いだした生命体がぱくっと割れて、幼生が飛びだし腹に寄生する……なんて描写は『エイリアン』('79)。最初に寄生された男(懐かしや『ヘンリー』のマイケル・ルーカー)は脳を侵され、さしずめクローネンバーグの『ザ・フライ』('86)のように次第に外見もグチャドロになっていく。どんどん形態を変容させていって触手怪物みたい(警察はこれを「イカ」と呼ぶ)になっちゃうのはカーペンターの『遊星からの物体X』('82)、でも遠目に写したカットは大きなハリボテが突っ立ってるようにしか見えず、まさに50年代ロジャー・コーマン『金星人地球を征服』('56)の金星ガニ(チープ極まる造形で有名)そっくり。ついに巨大な肉塊となっちゃう最終段階はスチュアート・ゴードンの『フロム・ビヨンド』('86)かブライアン・ユズナの『ソサエティー』('89)か。無残な姿になった(でも笑える)女性の身体から大量発生する紫色のナメクジは口から侵入して人をゾンビのように変えてしまうって設定にしても、入浴中にヒロインがそれに襲われるシーンも含め、クローネンバーグの『シーバース』('75)そのままだもんな。
まさにマニア心のカタマリなのであるが、監督のジェイムズ・ガンはホラー・オタクの中では有名な人物。あの毒々Z級映画で有名なトロマ社(代表作『悪魔の毒々モンスター』は本作でも引用される)で修業を積んで、『スクービー・ドゥー』『ドーン・オブ・ザ・デッド』といった脚本作でも数奇者パワーを爆発させていた。臆面もなくオマージュ捧げまくり、でもスピーディな展開と爆笑に次ぐ爆笑でぶっとばす演出力は相当のもの。なんでもかんでもCGでやっちゃう風潮に背を向け、特殊メイクを昔ながらのシリコンゴムで造形し、アメリカじゅうの素材が底を突いた、というエピソードにも涙涙、なのである(笑)。
Text:Milkman Saito