『フル・モンティ』『カレンダー・ガールズ』『キンキー・ブーツ』など、近年の英国ブルーカラー・コメディはたびたび題材を際どいところに求めてきたが、これは直截的にセックス産業がネタ。「やわらかい手」と聞いてこういう内容を想像できる人はよほどのスケベか風俗猛者しかいないと思われるが、見れば誰もが大納得。よくぞこんな邦題をつけたもんだと感心する。
ロンドン郊外で暮らす初老の未亡人マギー。しかし愛する孫息子は渡航治療を要する難病で、大金を稼ごうと奔走するもののアテもなく働き口もない。万策尽きたある日、“接客係募集”の貼り紙を目にした彼女が足を踏み入れたのがセックス・ショップ。そこで与えられた仕事とは……壁に空いた穴の向こうから突きだされた男性器を手でナニしてやる仕事だったわけ。顔が見えないもんだから純粋に手と指のテクが試されるものだが、マギーは見事に天賦の才があったのだ!
細部に現在のイギリス社会を垣間見せる物語も面白いけれど、本作の成功の要因はなんといっても主役にマリアンヌ・フェイスフルを配したことに尽きる。'60年代ロンドンのポップ・アイコンとしてミック・ジャガーに愛され同棲。しかしドラッグ中毒に流産、ミックとの別れとオーヴァードーズによる意識不明を経て'79年、見事に薬灼けしたノドで歌手としてカムバックするまでの地獄の日々はあまりにも有名だろう。そうした過去を誰もが思い浮かべるからこそ、本作の彼女は重みを増す。体重も二倍は増していそうなひどくふっくらとした相貌と、毅然としつつも心根の深さを思わせる物腰と佇まい、過去と現在をすべて引き受ける覚悟を感じさせる歩きかた……『あの胸にもういちど』('68)の頃とはあまりにも変わったものの、挙動のひとつひとつにマリアンヌとマギーが美しくシンクロするのだ。名優ミキ・マノイロヴィッチ演じるセックス・ショップのオーナーとの大人の恋もたまらない。
Text:Milkman Saito