『ある愛の風景』 孤独感喪失感を観るものにまで突きつけ、心を激しく揺すぶる映画。
07 12/4 UP

銀行強盗して服役していた弟を出迎えたあと、アフガニスタンへ人道支援に赴いた軍人の兄。ところが到着直後、彼の乗ったヘリがアルカイダに撃墜されてしまう!残されたのは哀しみに暮れる美しい兄嫁と二人の娘。面倒を起こす厄介者として家族から孤立しがちな弟だったが、親しい者への喪失感を共有し、心の傷を舐めあううち……。

となると、だいたいその後の展開は予想できそうなものだろう。原題が「兄弟」だってことも考えあわせれば、とりわけハリウッド的なドラマツルギーにおいてはああなってこうなって、そしてきっと、ああなるかこうなるかするはず(笑)。

しかしこのデンマーク映画、観客が想像するような展開にはならない。いや、観客がメロドラマに求めがちなクリシェを「これくらいのベタな刺激、欲しいよね?」ってな感じで勿体ぶらずに繰り出しつつ、ある時点で綺麗に裏切ってくれるのだ。これが監督スサンネ・ビアの……というか、彼女とコンビを組む脚本家(実は監督としても剛腕なのだが)アナス・トーマス・イェンセンの得意技。しかもだ、そうしたテクニックの巧さだけでなく、絶対的な孤独感喪失感を観るものにまでぐいぐい突きつけてくるテンションの高さがモノ凄い。ここまで心が激しく揺すぶられる映画というのもそうあるもんじゃないのだよ。

明らかにこの作品の場合、人物たちに至近距離で肉迫し、場の空気そのものに迫るHDキャメラの効果が大きく貢献している。いつしかメジャー映画でも普通に使われるようになったHDだが、これは単に機動性や経済性だけで選ばれたというものではないだろう。思えば、ヴィデオを劇場作品で有効に使い始めたのは、ラース・フォン・トリアーがアジテーションした「ドグマ95」。既存の映画システムや方法論を否定し、人間のリアルな営みをダイレクトに掴みとろうとした運動である。本作はまさに、あの理念に極めて近しいものでもあるのだ。



『ある愛の風景』
監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トーマス・イェンセン
製作:シセ・グラム・ヨルゲンセン
出演:コニー・ニールセン、ウルリッヒ・トムセン、ニコライ・リー・コス
2004年/デンマーク
原題:BRODRE
上映時間:117分
配給:シネカノン

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12月1日(土)よりシネカノン有楽町2丁目ほか全国順次ロードショー

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