『ナルコ』サバービアのちいさな憂鬱とちいさな幸福、エキセントリックな波乱の半生をのぞく新感覚フレンチ・コメディ。
07 10/18 UP

「ナルコレプシー」というのは、いつでもどこでも発作的に睡眠に落ちてしまうという奇妙な病気。この映画だけの話ではなく、実際に現在も多くの患者が悩まされている睡眠障害のひとつだそうで…、そんな病気に悩まされる主人公ギュス(ギョーム・カネ)の奇想天外な人生をコミカルに描いたのがこの映画『ナルコ』。

コミカルというのが実に文字通りの新感覚のフレンチ・コメディ映画で、観ている間は、原作はきっとコミックなんだろうと思い込んだほどだ。テンポのよい展開と語り口、奇想天外で不条理なストーリーはいかにも。あまり知られていないかもしれないけれど、フランスは「コミック」大国である。監督は、あきらかにそんなカルチャーにどっぷり浸かって育ったに違いないトリスタン・オリエとジル・ルルーシュというコンビで、この作品が初の長編作品となる。脚本・台詞も彼ら自身によるものだが、さらにジルは自ら俳優としてもミステリアスなスケーターの役を怪しく演じているのも注目である。

実はこの映画を最初に知ったのはフランス公開時に発売されたサウンドトラックからであった。ファンキーなザ・テンプテーションズ、KC&ザ・サンシャイン・バンドから始まって、デッド・オア・アライヴ、ブロンディ、ヴィサージュといかにも80sなヒット曲が続いたかと思えば、ヴェルヴェッツの「Femme Fatal」、キンクスの「All Day And All Of The Night」といったクラシックまで、60s〜80sの時代感をまるごとコンパイルしたような好選曲。厳密に言えばストーリーと実際の時代とはちょっとズレはあるものの、主人公のギュスの半生を振り返る際、このあたりのナツメロ選曲が、オプティミスティックだった時代を閉じ込めることに成功しているように思う。

さらにオリジナル・スコアはセバスチャン・テリエが担当している。先頃ダフト・パンクのギィ・マニュエルのプロデュースによるニュー・トラックを発表したばかりのフランスで今最も注目を集めるアーティストである(「ロスト・イン・トランスレーション」の中でもいい曲の使われ方をしてました)。彼の出世作ともなった名曲「La Ritournelle」ももちろんストーリーを盛り上げるのに一役かっている。

フランスの典型的なサバービアでのちいさな憂鬱とちいさな幸福。『スター・ウォーズ』や『ダブル・インパクト』のジャン=クロード・ヴァン・ダムといったエキサイティングでありながらも同時にどこかチープで軽薄な、そんな時代の空気が漂う。アメリカ文化への愛憎あいまみれた影響が、主人公はじめ各キャラクターの設定で細かく反映されているのもまた面白い。お気楽なはずなのに、なぜかやっぱり憂鬱になってしまうフランス人。すぐに女を寝取られるのももはやオキマリなのだけど、エキセントリックなこの世界をひとたびのぞき始めてしまうと、あっと言う間の100分間である。

『ナルコ』

監督:トリスタン・オリエ&ジル・ルルーシュ
出演:ギョーム・カネ、ザブー・ブライトマン、ブノワ・ポールヴールドほか
音楽:セバスチャン・テリエ
2004年/フランス
原題:NARCO
上映時間:105分
配給:バップ、ロングライド

http://narco-movie.jp/

10月20日(土)より、ユーロスペース、吉祥寺バウスシアターにてロードショー!

©2004 LES PRODUCTIONS DU TR_SOR / STUDIOCANAL / TF1 FILMS PRODUCTION / M6 FILMS

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