9.11以後、ハリウッド映画も確実に変化している。今の時代にアラブ問題を正面きって扱うなんてエンタテインメントとしてはかなりリスキーなことだとも思うが、ひと昔前のランボーな時代とは違い、そこには確固とした歴史観とメッセージがそこに籠められてもいるのだ。
サウジアラビア、リヤドの外国人居住区で起こった凄惨な自爆テロ。同僚が巻き添えを喰って殉職したこともあり、すぐさまFBI捜査官たち(ジェイミー・フォックス、ジェニファー・ガーナー、クリス・クーパーらというなかなかのコワモテ揃い)は国務省とサウジ側に手を延ばして現地へと赴く。明らかに介入して欲しくないという態度をあからさまにするサウジ側と事なかれ主義に終始する国務省の人間を横目に、王子を懐柔し、現場検証を進め、テロリストの巣窟にまで立ち入る彼ら。便宜上、FBI御一行の面倒見を押しつけられたアフガン人警官(『パラダイス・ナウ』のアシュラフ・バルフム好演)も最初は難儀そうな顔をしているが、ジェイミーと腹を割って話すうちに“国家としては完璧ではないが捜査は得意な”アメリカと、元ビン・ラディン一派だった老人の話などを訊くうちに捜査にのめりこんでいく。そうするうち、ひとりのFBIが一派の人質となって……。
さすが本流ハリウッド映画、戦闘シーンのガン・イフェクトやパイロ・テクニック、テロ・シーンの迫真性はものすごい。つまりアクション映画としても一流なのだ。テロ捜査が終始FBI側から描かれていることや、ヴェールもせずに髪の毛丸見えで市街に乗り込むジェニファーといい(笑)、今までのハリウッド的ドラマツルギーを逃れていないようにも見える。しかしだ……ジェイミーがジェニファーの耳元でなにやら囁いた言葉とテロ集団の指導者が呟いた言葉がまったく同じであるとラストで暴かれたとき、本作のメッセージは時限爆弾のごとく胸を直撃する! 9.11以後、さらに拡大していくアメリカとアラブ世界の憎悪の環を真摯に見つめる視点は、機動性の高いHDキャメラの使用もあわせて、大学アメフトに依存する地方都市を冷徹に描いた傑作『プライド 栄光への絆』のピーター・バーグ監督らしさともいえるだろう。
いや、実は本作のメッセージはタイトル『キングダム』と、アフガニスタンの歴史をグラフィックに概説したオープニング・タイトル(PICによるこれは本年屈指のデザイン)ですでに明確に表されている。サウジアラビア王国はつまり石油利権絡みの欧米の干渉で成立・維持されているもので、それが人民への搾取を生み、歴史的必然として9.11へと結びついたのだ、ということを!
Text:Milkman Saito