07 7/27 UP
今の僕が、日本でもっとも気になる映画作家といえば山下敦弘だ。前作『松ケ根乱射事件』は、閉鎖されたムラ社会のダークサイドを露悪的に笑いのめした凶悪な作品だったが、よりにもよってその次に、こんな映画を撮りあげるとはなんと大胆なと呆れるべきか、器用なと感嘆すべきか、狙ってますねぇと苦笑すべきか。同じく田舎を舞台にしながらも、まさしくネガとポジの関係。対極的な底抜けの善意の物語だ。
ヒット作『リンダリンダリンダ』あってこそ実現した感のある青春ものなのだけれど、さらに衒いもなく照れ臭く、田舎の中学生の日常生活(といっても小学校と中学校の合同校舎なので、生徒は年少の者の面倒も見なくちゃならない)、そして恋愛を“健康的”に描いていく。しかし風景や空気をまるごと大きく掴み取るような彼のスタイルと、人と人が交わったときに流れる電気的といってもいい微細な反応を捉えるテクニックはさらに磨きを増したかに思えるのだな。心底のんびりしたムードながらも、そのきらめきには一瞬の弛緩もなく、ラストショットまで見事に持続するのも凄い。ちょっとしたディテイルを丹念にすくいあげ、数分後の美しくもささやかなオチへと結びつける脚本・渡辺あやとのコンビネーションも想像以上に正解で、ふたりの資質に共通する押しつけがましさのなさが自然な感涙を呼ぶ。
主人公そよを演じる夏帆の佇まいは、まさに山の草原を駆け抜ける風の音のように爽やか(監督はかなり彼女のオウ脚に拘ってる由)。中学男子のガキっぽさデリカシーのなさを露呈しながらもけっこう鋭い大沢くん役・岡田将生も好演。いやぁ夏休みって感じになりますよぉ。
Text:Milkman Saito