07 6/14 UP
数年前に翻訳され、本好きの話題をさらった「奇術師」という小説がある。SF作家クリストファー・プリーストによる虚実入り交じった伝奇的な物語だが、これをクリストファー・ノーランが映画化。彼は『メメント』に典型的なように、物語の叙述そのものに拘りまくるのであるけれど、本作もまた然り。手記や手紙、あるいはいくつもの過去が交錯する複雑な構成が取られているが、それは『メメント』ほどにも煩わしくなく、意外やすんなり観れるのも作家的成長か。
舞台は19世紀末のロンドン。もともと同門でありながら、激しく敵対することになるふたりの奇術師、「グレート・ダントン」ことアンジャー(ヒュー・ジャックマン)と、「ザ・プロフェッサー」ことボーデン(クリスチャン・ベイル)の、「瞬間移動マジック」をめぐる“手の汚しあい”が苛烈にしてスリリング。ま、映画全体に関わる大きなトリックはたぶん途中で判る人は判るだろうが、実のところそんなのはどうだっていい。単にヴィクトリア朝ロンドンを再現したというにとどまらぬ、空想の翼を思いっきり拡げた完璧というに近いプロダクション・デザインの素晴らしさ。そしてジャックマンとベイル白熱の競演に目を見張りっぱなし。
あの大奇人ニコラ・テスラをデイヴィッド・ボウイが演じるというのもナイス・キャスト。今をときめくスカーレット・ヨハンスンの影はわりあい薄いが、彼女と対を成すボーデンの妻役レベッカ・ホールは脇役として貴重になるんじゃないか? そういえばアンディ“キング・コング”サーキスも大きい役で出演!
Text:Milkman Saito