ジュディ・デンチとケイト・ブランシェット。現代イギリスを代表する名女優がガチンコ対決するってんだから、渋い文芸ドラマかと思ったら大間違い。ま、丁々発止の演技合戦が見られることには違いないが、これは正攻法のサスペンス。緊張の糸が張りつめた心理スリラーとして秀逸なのだ。
ロンドン郊外の中学校に赴任してきた美術教師シーバ(ケイト)。慣れない教職に不安げな彼女に最初に接触していったのは、周りから孤立した老教師バーバラ(ジュディ)だった。しかし偶然バーバラは学校内で、シーバが15歳の教え子とセックスするのを見てしまう。この絶対的な“秘密”をネタに、バーバラはシーバの家庭内……ぐっと齡の離れた夫(ビル・ナイ)がいる……にも親しげに入り込み、そこから奇妙で不安定な友情関係が生まれていくのだが……。
そうしたふたりの関係性を、映画はジュディのダイアローグとともに綴っていく。この独白というのは、タイトルどおり彼女のノートに記された言葉なのだけれど、これがクセモノ。長年の孤独と抑圧されたレスビアニズム、そして自分勝手な妄想と美化に溢れていて、画面で描かれるものとのあいだにかなりの較差があるのだ。ケイト・ブランシェットがとても魅力的に撮れているのも、あくまでジュディの視点で語られる話だけに正解だ。
さらにミニマル・ミュージックの巨匠フィリップ・グラスの音楽が素晴らしい。彼が映画音楽を手掛けるのは珍しくもないが、本作は『めぐりあう時間たち』以来の傑作ではないか。上映時間のうち、音の締める割合はいつにも増して過剰だが、ジュディの主観的・妄想的な感情の動きとぴったり同期するよう綿密に計算されたもので、映画全体にとって不可分なファクターとなっている。
とにかく怖い、おそろしい、そして意地悪で面白い。まさに女性版『コレクター』(ウィリアム・ワイラーのね)といってもいい快作である。
Text:Milkman Saito