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蜷川実花監督『さくらん』の脚本も手掛けたタナダユキの奇才ぶりを証明する本作。狭くてボロい文化住宅で、高校中退して働く兄とふたり暮らしの15歳・初子。幼いころに父は蒸発、母は借金に追われつづけて過労死。同級生で両思いの三島君と同じ高校へ行こうと約束したけど、中学生なのにラーメン屋でバイトしなくちゃ暮らしていけない彼女にそんなお金はない。我が身の不甲斐なさにヤケ気味の兄(電気止められてもデリヘル呼んだりする)にも、男と遊びまくり飲んだくれて生徒も斡旋してるふうなヤル気ゼロの担任女教師にも頼ることはできず……。
つまり今の時代で想像するに最底辺に近い極貧少女の物語。しかし人物造形とディテイルがしっかりしていてやけにリアルだ。理不尽な現実への静かな怒りが全編に充満してはいるものの決して暗く沈まず、なぜかいっそ爽やかな空気さえ漂っているのが、いささかオフビートなタナダ演出の素晴らしさだろう。同級生との初恋と兄妹愛の繊細な描写は胸を詰らせること必至……ただしかなりシビアではあるが(笑)。
宮藤官九郎脚本による昨年の昼ドラ「我輩は主婦である」でも目立っていた東亜優のまなざしが素晴らしいけど、“ザ・悪しき大人の論理の象徴”坂井真紀の脱力ぶりも絶品。ちょっと驚くべき傑作である。
Text:Milkman Saito