もうすっかり映画監督って感じになってしまったミシェル・ゴンドリーだが、ご存知のとおり、数年前までは超売れっ子PVクリエイターであった。とりわけビョークのための作品ではアニメーションやハリボテを多用して独特のキッチュな世界を作り上げていたが、それに最も近い長編映画が本作といえるだろう。
いってしまえばアート系男の恋愛妄想。メキシコ/フランスのハーフで、長くメキシコで暮らした自称グラフィック・デザイナーのステファン(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、母の国フランスに戻ってきてもいまいち他人とうまくコミュニケートできない。それは言語だけの問題ではなくて、そもそも彼の世界ははっきり自閉的なのだ。
自分の母親が大家であるアパルトマンの一室に棲みついた彼であるが、ある日隣に越してきたのがクラフト好きの女性(シャルロット・ゲンスブール)。案の定惚れてしまうんだけど、彼女の名がステファニーとくれば、これもどうも空想の産物ぽくもある。おまけにステファンはナルコレプシー(嗜眠症)ってことなのだろうか、不意に眠りの世界に入ってしまい、ますます現実と妄想は識別不能になっていくのだ。
時間をちょっとだけ戻すヘンな機械も登場し、なにやらゴンドリーの前作『エターナル・サンシャイン』と共通する要素も多いのだけれど、今回はもっとユルユル、良く言えば頭でっかちになっちゃいない(脚本がチャーリー・カウフマンではないからだな)。そんなイメージを増幅させるのが、ステファンの夢のシーン(すべて手作り感覚いっぱいのアニメーション)や段ボール製の脳内TVスタジオ(なんとも70年代テイスト)。それにしてもフィルムとノンCGにこだわる姿勢といい、童貞君っぽい傷つきやすさ、思い込みの激しさといい、ゴンドリーったらいつまでも思春期やってるんだなぁ。そこが好きだよ。
Text:Milkman Saito