07 4/25 UP
写真家の若木信吾が初めて長編映画に挑戦した。
彼が20年間写真を撮り続けてきた被写体、祖父の“啄次”氏にオマージュを捧げた本作品では、かつてはどこにでもあったであろう、なつかしい田舎の日常が舞台。監督である若木自身をモデルにした青年信人(山口信人)が、実家に帰省したところから物語は始まる。おおらかな祖父を慕う信人は、祖父の部屋に上がり込んでは何ともない会話を交わす。都会で暮らすほとんどの人たちがそうであるように、帰省しても特にすることがない信人。そんな彼は幼なじみの友人二人と一緒に出掛けたり、彼らの職場を訪ねたり、のんびりとした日常を過ごしていた。
圧倒的な存在感で祖父の啄次を演じたのは上方漫才の巨匠喜味こいし。一方で、信人の幼なじみには監督の友人が本人役で出演し、舞台となる信人の実家も若木の実家を実際にを使用している。フィクションとノンフィクションの間を、ドキュメンタリーと虚構の間を行き来する物語は、それゆえ感情のリアリティを浮かび上げる。
当然のことだが、都会で暮らしていようが田舎で暮らしていようが、波乱万丈であろうが平凡であろうが、誰にでも老いは訪れる。本作品は、信人と啄次の交流の物語であると同時に、「老いる」ことの本当の意味を伝えてくれる。もちろん派手なアクションもドラマティックな偶然もなく、本作品で描かれるのは淡々とした啄次の日常。身の回りに起こる出来事に真摯に向き合い、家族を愛する。どこにでもありふれていそうな、たったそれだけの啄次の生き方が、とても印象的だ。
Text: Takeshi Kudo (Rocket Company*/RCKT)