『ブラックブック』 突出する変態性が強烈なフェアヘーフェンのスタイルは、今までにもまして勃々と、彼の作家性がそそり立っている。
07 3/23 UP

“ポール・バーホーベン”と呼ばれる監督がいる。メガヒット作『ロボコップ』『氷の微笑』、最低映画賞ラジー賞に輝いた最高の映画『ショーガール』、そして戦争という人為的な行為を徹底的に異化した『スターシップ・トゥルーパーズ』といった快作&怪作でハリウッドを騒然とさせ続けた奇才だ。

だが商業主義に呑み込まれつづけることに飽き飽きしたのか、バーホーベン……もとい、パウル・フェアヘーフェンは23年ぶりに故国オランダ映画に帰還した。そして生みだされた作品は、かつての傑作『女王陛下の戦士』('77)の姉妹編ともいうべき第二次大戦秘話。それも、レジスタンス・ナチ・スパイ・潜入・脱獄・愛・裏切り・セックス・陰謀……とサスペンス映画のすべての要素を貪欲にぶちこんで、この10年でいちばん面白い戦争映画、といっていいほどの出来となった!

心理的な物語の中に、ときおり突出する変態性が強烈なフェアヘーフェンのスタイルは、もちろんハリウッドでも封印されていたわけではない。しかし本作は今までにもまして勃々と、彼の作家性がそそり立っている。

主人公は、家族をナチスに殺され、レジスタンスのスパイとなって敵の中枢部に潜入するユダヤ人女性。イデオロギーや使命感に突き動かされるわけでもなく、自分の情動にこそ忠実に、あくまで能動的に生き抜くヒロイン像はきわめて魅力的だ。だが、彼女の生きる時代は、彼女の目に見える以上に「善」と「悪」が別たれた時代ではなかった。彼女が過酷な運命に晒される戦後の世界において明らかにされる事実は(物語的にはまったく不自然だが、テーマ的には重要な悪趣味描写も相俟って)綺麗事では収まらない人間の醜い本質を冷笑的に浮き彫りにし、まさにフェアヘーフェンの真骨頂といいたくなる。

しかし重要なのは、これがあくまで直球のエンタテインメントであるということ。ヒッチコック・タッチまで援用した話法のドライヴ感は、失礼だけど「この監督、こんなに巧かったっけ?」と思わせもするほどだ。『ネコのミヌース』('01)でキュートさを振りまいていたカリス・ファン・ハウテンはやはり素晴らしく、『善き人のためのソナタ』('06)のセバスチャン・コッホも“ナチでありながらヒーロー(!)”という微妙な役柄を繊細に演じて感心させる。もう一度言う。とにかく面白い!!

 

『ブラックブック』

監督:ポール・バーホーベン
出演:カリス・ファン・ハウテン、セバスチャン・コッホ、トム・ホフマン、ハリナ・ライン、ワルデマー・コブス、デレク・デ・リント、クリスチャン・ベルケル、ドルフ・デ・フリース、ピーター・ブロックほか
2006年/オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー
上映時間:2時間24分
配給:ハピネット
宣伝:東芝エンタテインメント
宣伝お問い合わせ:ドリーム・アーツ・ピクチャーズ

3月下旬、テアトルタイムズスクエア他にて全国ロードショー

http://www.blackbook.jp/

www.honeyee.com

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