とにかくフォレスト・ウィテカーが大迫力。1970年代ウガンダの悪名高き独裁者イディ・アミンを演じているのだが、これがまた実にチャーミングなのだ。
などというと「国民30万人虐殺」という悪行を前にして、いささか不適切なのは承知。血で権力を奪取した人間の運命か、次第に疑心暗鬼の虜となり、忠実な者であっても些細なことで殺してしまうようになる……まことしやかに“殺した敵の肉を喰う”という噂が流れた彼の残忍さ、狂気の沙汰が避けられているわけではまったくない。
しかし同時にアミンは、最初は国民に大歓迎されたほどのカリスマの持ち主でもあった。優秀な軍人であるとともにボクシングのチャンピオン。民衆に人なつっこい笑顔で接し、熱い理想を訴えてもいたのだ。そうしたアミンの二面性を、ウィテカーは持ち前のバランスの崩れた両目も活かし、実に巧妙に演じてのける。今年の賞レースをほとんど制覇した力演に惹かれるうち、やがて観ている者は考え及ぶのだ。何故アミンは暗黒面へと傾いていったのか、彼を虐殺者にしたのは権力欲と猜疑心だけだったのかと。
実はこの作品におけるアミンは、彼の主治医となったスコットランド人青年医師(イングランド人でないのに注目)の目を通して語られている。このキャラクターは実際にアミンの近くにいた白人たちを併せたものだというが非常に暗示的である。つまりアミンとて欧米諸国による“第三世界”操作の駒に過ぎなかったということ。そうはなるものかと牙を剥き、アフリカ人としての主権を誤って誇示した結果が「蛮行」だったのではないかということ。本作は強烈な政治エンタテインメントという形を借りて(「エンテベ空港事件」等の歴史的事実も巧みに利用されている)欧米の思い上がりと欺瞞こそを衝くのである。
Text:Milkman Saito