南極の大氷原。スティーヴィ・ワンダーやプリンスにノって、子供ペンギンが超絶タップ。……そんな予告編に劇場で出くわし、あまりの可愛さに期待していた人も多かったのではないか。
ところが、である。観てびっくりとはこのことだ。これはただ「ペンギンが踊る」だけの映画ではなかった!
もちろんミュージカルとしてのレヴェルも高い。基本、既製曲の焼き直しなのだが、その繋ぎかた、アレンジが凝りに凝って絶妙なのだ。なぜか主人公マンブルのペンギン種族は「歌うこと」が集団の一員としての資格であるから(だから歌うことができずに“ヘンな足”でしか心を表現することのできない主人公は忌み嫌われ、放浪することになる)、ブロードウェイでも活躍するヒュー・ジャックマンはじめ、ニコール・キッドマンやブリタニー・マーフィーといった声優陣も素晴らしい歌唱を披露している(ただし歌えないマンブル役イライジャ・ウッドは歌ナシ)。
CGのクオリティもかなりのものだ。タップ・シーンは人間の動きをデータ化してアニメーションにするモーション・キャプチャーが使われているが、下手すると人間のただの模倣でしかなくなる技法である。しかし、ここではきちんとペンギンらしいキャラクターとして転化させているのがいい。とにかく動的でノンストップな全体のリズムもめくるめくスピード感があって素敵だ。
だが最大の驚きはいきなり終盤にやってくる。いや、それまでにも南極開発のショベルカーが登場したりして、不意のリアリズムの闖入は匂わされているのだが……タップ・ダンスといえばブロードウェイ、ブロードウェイといえばニューヨーク。主人公マンブルはやがて……。
いやこれ以上語るのは止めておこう。映像表現上の驚きとともに(さすが『マッドマックス』『ベイブ』のジョージ・ミラー!)、この映画の真のテーマが明らかになった瞬間の驚きを味わっていただきたいからだ。……でも一言(笑)。これはかなりヒネったエコロジー映画であり、ラストには古き良きアメリカ映画に倣った「クリスマスの奇跡」が訪れる。
Text:Milkman Saito