これはもう正面切った「幽霊譚」である。いかにも霊体が映りこみそうな「鏡」の多用も思わせぶりで不安感を煽りまくるが、いざ“出る”となれば、ひゅーどろどろといった勿体ぶった素振りもなく、まさにムンク「叫び」のポーズでもって、耳を射貫くほどに絶叫しながらどかーんと現れる。白昼堂々、真っ赤な服を着た女の幽霊が。
だが物語は極めてミステリアスに始まるのだ。開発途中の湾岸地帯(地震が起こるとたちまち液状化し、水浸しになる)で起きた殺人事件。それを捜査する刑事(役所広司)は現場に自分の痕跡があるのに気づき、ひょっとして自分が犯人なのではないかと疑いはじめる。黒沢清は前に役所主演で『ドッペルゲンガー』という作品も作っているし(まあ、あれは狂ったコメディだったが)、やはり分身の仕業ではないのか?…妙なカウンセラー(オダギリジョー)も出てくることだし、精神分析的なオチがつくんじゃないのか?……などと、この不条理サスペンスじみた展開に考えを巡らしつつ観入るうち、ほどなく似たような手段(海水で窒息死させる)を使った殺人事件が頻発しはじめる。そこから徐々に姿を見せはじめるテーマは実に巨大でおそろしい。
実在すると仮定してだが、幽霊とはおそらく、「過去」に生きた人間の残留エネルギーであろう。この映画ではこれが一種の都市論にまで拡大されるのだ。さまざまなものを無造作にぶち毀し、見たくないものに眼をそらしたまま開発を続けてきた都市。見捨てられたものの想念はやがて、自分たちの骸の上に築きあげられた「現在」に牙をむくだろう。いまを生きるものはそんな過去に無関心でいていいのだろうか。やはり何らかの償いをするべきではないのか。
……しかし現代人が背負わされたカルマは、解消するにはもはや遅すぎる。それゆえにこの物語はとてつもなくおそろしい。
Text:Milkman Saito