手塚漫画の中でも最も伝奇・怪奇的要素の強い部類に入る「どろろ」。幼少の頃に観たTVアニメ、ずっと後で読んだ原作漫画ともども僕には特別なものとなっているが、なんと塩田明彦にとってもそうだったようだ。
相当の映画狂でもある塩田らしく、多彩な要素を詰め込んだ汎アジア的一大スペクタクルとなった今回の映画化。武将である父(中井貴一)が48体の魔神と交した契約により、身体の48カ所を失って生まれた百鬼丸。その棄てられた「肉塊」を拾いあげた呪医師(原田芳雄)が、人体を造り上げ教育を施していくまでの細かく執拗な描写は怪奇映画趣味たっぷり。まるで和風フランケンシュタイン譚である。
そして長じた百鬼丸(妻夫木聡)が、自分の真の身体を取り戻すべく魔神たちと闘うシーンはワイヤー・ワークのパイオニアたる香港のチン・シウトンが担当。彼のエポック作であった『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』を彷彿とさせる久々にシウトンらしい華麗なアクション振付を、妻夫木ならびに“どろろ”役の柴咲コウは立派にこなしていて驚きだ。東宝のお家芸である怪獣映画のテイストも多分にあるのが嬉しい。
しかし映画全体の構造を見るならば、これは戦乱の中で父母を失い、棄てられた子供たちの物語なのである。そもそもどろろとてそういう境遇であり、百鬼丸とて然り。後半、天下取りと引き換えに自分を魔神の手にに渡した父と百鬼丸の肉体的・精神的な葛藤劇が繰り広げられるが、これもまた塩田明彦的である。というより、オウム事件を素材に親と子の闘争を描いた傑作『カナリア』そのものじゃないか! と同時に『影武者』『乱』などの黒澤シェイクスピア時代劇を想起させるのも面白い。ともあれ、メジャーであろうがなかろうが自分の映画を貫く作家・塩田らしい、えらく骨太な娯楽作なのである。
Text:Milkman Saito