デニムドクターと呼ばれ、古着業界で名を馳せるジップ スティーブンソンが創設した、人気ブランドHTC。ヴィンテージに精通したジップがリバイバルさせたスタッズベルトは、瞬く間に世界中に流通し、現代におけるスタッズアイテムの認知度を飛躍的に高めていった。
それに続くニューアイテムとして登場したのが、このメキシカンリングである。そのルーツは、1930〜60年代にメキシコからのスーベニアとしてアメリカに輸入された、スカル・マリア・インディアン・クラウンなどをモチーフにした、シルバー×カッパー製のリングにある。迫力のある外観やボリューム感のあるマッスに加え、比較的安価で幅広い層が購入できたことなどが、人気を博した理由だったそうだ。当時のものは希少性が高く、コレクターズアイテムとして価格も高騰している。
このようなアイテムに常につきまとい議論の争点となるのが、多角的な観点から見据えた、オリジナルとリプロダクトの差違の問題である。確かに、古きよき時代に生まれた製品は、なんともいえない独特の風合いがあり、アイテム単体の魅力は並々ならぬものがある。だがしかし、こと現代的ファッションとのフィットという視点で読むと、必ずしもヴィンテージを選ぶことが正解であるとは限らない。なぜなら、それらがモダンなファッションアイテムにマッチするとは一概にはいえないからである。これは、あらゆるジャンルの境界線が揺らぐ現在のファッションシーンを見渡せば、至極当然のことである。
その距離を縮めるためには、歴史を学び今を知りつつ、数歩先を見据えたヴィジョンが必要不可欠である。HTC=ジップ スティーブンソンの物作りは、これらを実践していることに意義があり、ビジネス的にも優れた嗅覚を有している。
Text:Tsuneyuki Tokano
Photo:Masaki Sato