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オートのデザイナーを務めるヴィンチェンツォ・デ・コティは、建築家とファッションデザイナーという2つの顔を持つクリエイターとして知られている。

常識的に考えると、少なからず恒久性が求められる建築と、消費者の好みや流行が半永久的に移り変わるファッションとでは、クリエイションの本質として、 多少なりとも通ずる部分もあるにせよ、その 質は必然的に大きく異なる。加えて、どちらの世界も一夜漬けでどうこうなるような甘い世界ではないが、彼は、その境界線を跨ぎ、互いのジャンルを行き来できるほどの能力と造詣を兼ね備えた、類い稀な る才能の持ち主である。

その証拠に、今もっとも人気が高く、市場に多くの製品が流通しているレザーアイテムひとつをとっても、他社とはひと味もふた味も違う、優れた提案を披露している。

数あるファッションブランドの中でも抜きん出たシルエットのバランス、シックでありながら安定したクオリティを保持する素材、計算されつくした付属品への配慮と、見れば見るほど隙がない。

「能ある鷹は爪を隠す」という言葉のように、彼の主張は、その実力を全面的に押し出すというよりも、素材の選抜を基軸に、あるべきものをあるべきところに配置することで、全体のコンポジションに対して、多くの力を注いでいるように見受けられる。

そして最後の仕上げとして、ヴィンチェンツォは、コレクションに、ほんの一握りだけファンタジーを投入している。これこそ、ファッションにおけるリアリティの重要性を知り尽くしているからこそ可能なフィニッシングであり、完全なる調和への完成へ向けたフィナ－レなのである。