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 英国地下のディスコ・ヒーロー、チキン・リップスが発表したばかりの新作アルバム『Making Faces』を携えて、緊急来日を果たした。登場したのはDJのスティーヴ・コティ(彼は自主レーベル、Bear Entertainmentも主宰している)とヴォーカリストのジョニー・スペンサー。前夜に西麻布のイエローで30分のライヴを挟み、朝7時過ぎまでロング・ランのパーティを行った彼らは、前日の疲れも見せず、半日ほど前に行われたライヴについて語ってくれた。

「昨日はチキン・リップスとして初めてのショウだったから、正直言えば、ちょっとナーバスになったよ(笑)。でも、イエローの雰囲気も良かったし、オーディエンスの反応も好意的で、結果的にパフォーマンスを楽しむことが出来たと思う。今回はカラオケみたいだとも思ったけど(笑)、次に来る時は、ぜひバンド形態で演ってみたいね」(ジョニー・スペンサー)

 グループにとって3枚目となる本作『Making Faces』がそれ以前と大きく異なるのは、ジョニー(とツイギー)というヴォーカリストをフィーチャーした点にある。70'S後半のディスコ・ダブや80'Sのエレクトロをインストゥルメンタルにミックスしてきた、これまでの彼らのスタイルを考えると、本作は大きなチャレンジと言える作品であることは間違いない。

「アンディはデヴィッド・ボウイの大ファンでボウイ・スタイルのヴォーカリストを探していたんだ。で、15年来の友達である俺がそういうスタイル──ソウルフルなヴォーカルでありながら、ストレートなソウルじゃなく、ロックとソウルの要素がミックスされたスタイル──で歌えることを知っていて、オファーがあったってわけ。ここで歌われているのは、信頼していた友人を失ったことで人生がぐちゃぐちゃになって、イギリスから移り住んだスペインでの生活のスナップショットのようなもので、そこで出会ったツイギーっていう日系スペイン人のガールフレンドとの奇妙な関係が歌われているんだ」(ジョニー・スペンサー)

 ヴォーカルをフィーチャーすると同時に、本作はトーキング・ヘッズやプリンス、デヴィッド・ボウイやストーンズといった70年代後半から80年代にかけてロックとダンスのクロスオーヴァーを実践したアーティストの影響が色濃く反映されているのが大きな特徴と言える。このサウンドはクラブ・ミュージック好きのみならず、今のロック・サウンドに耳慣れたリスナーにとっても、アピール度は相当に高いのではないだろうか。

「アンディとディーンはそうした音楽のオールタイムのファンなんだ。ローリング・ストーンにしたって、ロック・バンドでありながら、“Miss You”とか“Too Much Blood”みたいな、イカしたベースラインと最高のディスコ・ドラムを聴かせるダンス・チューンがあるよね。かつて、そういった曲はクロスオーヴァー・ヒットを狙って作られた経緯があるけれど、今の若い子たちは、そうした音楽をカテゴライズせずに楽しめる耳を持っていると思うし、今回のアルバムはそういう子たちに向けて作られているんだ。要は色々な音楽の要素がミックスされて出来上がっているのが『making faces』っていう作品なんだ。ただ、こういう作品は、それを売るレコード会社からすると、カテゴライズしづらく、売りにくいという理由から敬遠されやすいんだ」(スティーヴ・コティ)

 いつの時代も新しいフロンティアは曖昧な境界線上にあるものだ。リミキサーとして、現在、多数の作品を手掛けつつある彼らは、しかし、本国でも追い風を受けつつある。

「その点、今のレーベル・スタッフは非常に協力的だし、これはお世辞じゃなく、日本のリスナーは世界に稀な、あらゆる音楽に対してオープンな姿勢でサポートしてくれて本当に感謝しているんだ。ドウモアリガトウ。僕の感触として、今は'95年くらいのディスコ・オリエンテッドなUKハウス(NU-HOUSE)の盛り上がりが戻ってきているような気がするんだ。しかも、ただ盛り上がっているだけじゃなく、アシッド・ハウスだったり、コズミックだったり、色んな音楽が並行して聴かれているし、しかも、そういう音楽を楽しんで聴いてくれているのは若い子だったりする。不思議な気分がするのは確かだけど、同時に彼らのサポートには勇気付けられるよね」(スティーヴ・コティ)

『Making Faces』
RUSH! PRODUCTION / Asmik Ace
発売中

www.honeyee.com

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