ハウス・ミュージックにおけるオルタナティヴ・フォームが全世界のアンダーグラウンド・シーンで同時多発的にじわじわと進行しつつある。一党支配的だったソウルフルでオールドスクールなニューヨーク・ハウスの勢力図が、国柄や地域特性を色濃く反映したリージョナルなトラックやアーティストに取って代わられ、しかも、インターネット等を介した相互交流を経て、更なるトランスフォームを重ねつつあるのだ。かつての権威を追い落とし、トレンド的な消費をするりとかわしながら、日々進化を続けるスリリングなハウス・シーンの胎動。もし、そうしたものに触れたければ、シーンの最新最良のレポートといえる格好の作品がここにある。
『THIS IS RONG MUSIC』と、そのタイトルで“RONG MUSIC”というレーベル名を高らかに告げるミックスCDとコンピレーションCDの2枚組アルバムがそれだ。このレーベルを運営するのは、独自のレイヴ・カルチャーを発祥としてダビーでトリッピーなブレイクビーツ・ハウスが日々量産されているサンフランシスコ在住のベン・クックとダンス・パンク・シーンの更にそのまた先の張りつめた空間に身を置きながら現代アート美術館<P.S.1/MoMA>に勤務するDJ SPUNという2人。つまり、このRONG MUSICとは米国両端に位置する全く成り立ちの異なる街にまたがる新興レーベルというわけだ。
このレーベルが'03年の設立から3年の間にリリースした21枚の12インチ・シングルを選りすぐった本作はそのリミキサーを含め、世界中の地下を暗躍するディスコ・シンジケートの組織図そのものだ。参加しているのは、DJ SPUNとRUB N TUGのERIC DUNCANによるNY地下ディスコ・ユニット、HOW & WHYやベン・クックのTriangle Orchestraはもちろんのこと、イギリスの人気ディスコ・ダブ・クルー、Chicken Lipsにサンフランシスコのクラウト・ダンス・バンド、Tussle、はたまたノルウェイのバレリック・ディスコ・チーム、Lindstrom & Prins Thomasに米国ジャム・バンド・シーン御用達のDJ HARRY……怪しげで、しかし、魅力的な世界各地のビート・ブローカーたち。痕跡を残さぬようダビーなスモークが焚かれ、張りつめたテンションが続くかと思えば、拍子抜けするかのようなアルコホリックなノリのディスコが飛びしてみたりと、2枚の作品はジャンルや国境線を踏みにじるアナーキックなパーティ・グルーヴが聴き手を異空間へと誘う、そんな内容になっている。恐らく、多くのリスナーにとって、見たこともないサウンドスケープがそこには広がっているはずだが、この作品を入り口として更に奥へと分け入れば、トランスやプログレッシヴ・ハウス、果てはテクノまで、その境界線が完全に消失した新天地がリスナーを待っているはずだ。