売れっ子CMプランナー/ディレクター、あるいは異能のPV監督、あるいは異色TV番組の構成・脚本、そしてまた週刊文春の自虐的爆笑エッセイ連載など、次々と活躍の場を拡げる大西エリー31歳の劇場用映画初監督作である(とはいえ元はネットのための作品だったらしいが)。
かねてから大ファンであったというスピッツのシングル・コレクション・アルバムのCMを手掛けたのをきっかけに、その出演者でもあった宮崎あおいと西島秀俊を起用し、なんと家庭用VTRとさして変わらぬ機材で(!)、たった2日半で(!!)撮りあげたものだという。それは本人から直接聞いたことでもあり真実らしいのだけれど、その真実から想起させる安直さとは決定的に異なる真摯さがストレートに溢れているのが素晴らしい。
そもそも草野正宗の詩には、恋愛することの歓びだけでなく、愛することの不安であるとか、アイデンティティの揺らぎであるとか、それを突破することの覚悟であるとかが誠実に顕れていると僕は感じる。本作はそうした本質的な部分へ、恋愛未満のふたりにまつわるハードコアな血族模様をも絡め、生真面目すぎるほどまっとうに相対していていい。先に言った「真摯さ」とは、まさに生きること、他人と通いあうこと、恋愛することへの真摯さであって、それをくだらない感傷やロマンティシズムなく描けるというのは貴重な才能というべきだろう。
それにしても、である。台詞と同等のヴォリュームで響きわたるスピッツの曲のウルサさ(笑)は、普通の劇映画の作法として非常識といってよい。スピッツ自ら「もうちょっと下げれば…」と言ったほどだとか。しかしその非常識が全編にわたって徹底的に行使されるうち、観る者はこれが「挿入曲」という概念で鳴らされているわけではなく、もっと作品自体と不可分なものとして認識できるよう、明白すぎるほどの意志でもって提示されていると気づかされるだろう。大西エリー、恐るべし。
Text:Milkman Saito